2013年5月5日日曜日

ザ・ゴシップ / ザッツ・ノット・ホワット・アイ・ヒアード


ザ・ゴシップ / ザッツ・ノット・ホワット・アイ・ヒアード

The Gossip / That's Not What I Heard(2001年リリース)
①Swing Low ②Got All This Waiting ③Bones ④Sweet Baby ⑤Tuff Luv ⑥Got Body If You Want It ⑦Where the Girls Are ⑧Bring it On ⑨Heartbeats ⑩Catfight ⑪Jailbreak ⑫Southern Comfort ⑬And You Know... ⑭Hott Date

このレビューを書こうと思って、いきなり躓いたのがタイトルの日本語表記。この作品は日本盤がリリースされていないため、タイトルのカタカナ表記あるいは邦題がなく、'Heard'をどうカタカナ表記するか悩んだ。「ハード」の方が本来の発音に近いカタカナ表記かと思うが、これだと'Hard'をイメージしてしまいがちと思い、ここでは「ヒアード」とさせてもらった。また、蛇足ながらバンド名が'The Gossip'から'The'が取れて現在では'Gossip'を名乗っている点も書き添えておく。

俺とゴシップが出会ったのは、まだ20世紀だった2000年のHMV横浜VIVRE。今はないこの店舗で当時、店内のエスカレーター横にシングルCDのコーナーが設置されていたと記憶している。そこで目にした黒地に白のラインとピンクで'the GOSSiP'と書かれたD.I.Y.感あふれる雰囲気のジャケット。そこに印刷されたKレコードのロゴを見て購入を即決した。だがその中身を聴いてみると、カレージ直球なサウンド自体は大変好みであったものの、楽曲自体が俺の琴線に触れるようなものではなかった。更に、キル・ロック・スターズからリリースされたこの1stアルバムを中古で入手するも印象は変わらず。ここで一度ゴシップに対する興味を完全に失う。

数年後、スリーター・キニーやクアージ目当てで買った"BURN TO SHINE"の第3弾であるポートランド編にトリで出演していたゴシップを見て、ゴシップに対する印象が180度好転する。この時初めて動くメンバーの姿をキチンと確認したのだが、ぽっちゃりレヴェルでは済ませられない女性シンガーの貫禄、ファッションセンスとそのアクション、小汚いおっさんギタリスト(ここではベース)の佇まいのダサさ、この2人の醸し出す雰囲気にメチャメチャ惹かれて虜になった。そしてもうひとり、映像を繰り返し見てようやく気づいた男前ドラマーのおっぱいの存在。その3人の織り成す絶妙なバランスが堪らなかった。この頃のゴシップは3rdアルバム『スタンディング・イン・ザ・ウェイ・オブ・コントロール』がリリースされ英国で火が付き、ベス・ディットーがポップアイコンとして世間一般の注目を集めていた。ゴシップは俺の知らぬ間に成功を収めていたのだ。

この1stアルバムのガレージなサウンドは、ベスの歌にブレイス・ペインが奏でるシンプルなリフが絡みつくことで構成されており、ベースレスで抜けがいい。もっと言えばベスの声、ブレイスの演奏、その2つがあればこの頃のゴシップは成立していたと思う。ベスの歌い方はロックやパンクっていうよりもゴスペルとかの方が近いと思うが、この1stで聴けるサウンドに対してはガレージって言葉が本当によく似合う。ベースレスでガレージっていうとホワイト・ストライプスの名前が出てくるけど、ジャック・ホワイトのギタープレイと比較してブレイスのギターはカッコいいことを一切やろうとしてない。直球一本勝負なのが味にもなっていて好感が持てるし、逆に言えばそれしかできなかったのかもしれない。2007年の来日公演でブレイスはギターぶら下げたままシンセサイザーも演奏していたけど、ここでも決してカッコよくはない古臭いままのニューウェーヴ感が堪らなかった。この2つの個性は後に大きく化けるダイヤの原石たるものだったわけだが、見た目も含め大きくビルドアップしながらも現在までやっていること、やろうとしていることにブレがないのがいい。ガレージというよりはクラブ受けするダンスロック的な位置付けになったことと、ベスの服装やお化粧にお金を掛けられるようになったことは大きな違いかもしれないけれども。

ちなみに前述の"BURN TO SHINE"で演奏している男前な現ドラマーのハンナ・ブライリーは3rdアルバム『スタンディング~』からの参加で、この1stおよび2ndアルバム『ムーヴメント』では、後に助産師を目指して脱退するキャシー・メンドーサが叩いている。ハンナもベスと同じくLGBTのようで、4thアルバム『ミュージック・フォー・メン』のジャケットで見られるキリッっとした彼女の佇まいが本当に男前だ。その一方、2007年の来日時には髪の毛を伸ばして下ろしており、一目見て恋に落ちるほどスゲー好みの女の子だった。そんな彼女の双子の兄弟は、ザ・ブラッド・ブラザーズのツインヴォーカルの片割れらしい。以上、どうでもいい情報。

3rdアルバム『スタンディング~』およびそれに続く2枚のアルバムでは、シンセサイザーの多用などによりサウンドが華やかでダンサブルになりつつもその立ち位置といった基本路線に大きな変更はないのではないかと思う。そのルックスや行動、言動は極めてキワモノであるにも関わらず多くの人たちに受け入れられている点は注目に値する。グランジ等のオルタナティヴな音楽がメインストリームと化したり、ライオット・ガールやフェミニズム運動が注目された90年代初頭を連想させる部分もあり、LGBTかつ肥満体で真のオルタナティヴな存在であるベスが世間に受け入れられる様は痛快だ。また、フジロックフェスティバルへの出演を含む来日公演では、ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」やビキニ・キルの「レベル・ガール」をカバーするなど、自身のルーツを明らかにする音楽ファンへのサーヴィスも興味深い。

5thアルバム『ア・ジョイフル・ノイズ』の日本盤帯に書かれた「次世代ダンスロックの決定版!」というダサカッコ悪いコピーに負けない今後の活躍を祈りつつこの文章を締める。(k)



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