2013年4月28日日曜日

ザ・デッド・ウェザー / 狂おしき薫り


The Dead Weather / Horehound

The Dead Weather / Horehound(2009年リリース)

①60 Feet Tall ②Hang You From The Heavens ③I Cut Like A Buffalo ④So Far From Your Weapon ⑤Treat Me Like Your Mother ⑥Rocking Horse ⑦New Pony ⑧Bone House ⑨3 Birds ⑩No Hassle Night ⑪Will There Be Enough Water?

元ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイト、ザ・キルズのアリソン・モシャート、クイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジのディーン・ファーティタ、そしてザ・グリーンホーンズのジャック・ローレンスという豪華なメンツ・・・ごめん、俺はこれらの人たちが所属するバンドの曲を聴いたことがないんだ(笑)。ちゃんと今の音楽シーンを追っている人からすればある意味スーパーグループなのかもしれないが、俺はジャック・ホワイトしか知らないし、そのジャック・ホワイトだってようやく今頃になって興味をもったという程度なんだ。だから取り掛かりとして、そこから書かなくてはならいだろう。

ジャック・ホワイトに興味を持ったのは去年のこと。『ゲット・ラウド ジ・エッジ、ジミー・ペイジ、ジャック・ホワイト×ライフ×ギター』という映画のDVDを見たことに始まる。この映画はタイトルにある通り、U2のジ・エッジといまさら説明不要のジミー・ペイジ、そしてジャックの3人がそれぞれのギタースタイルをどう築きあげていったかとか、各々のバンドの話とかジャム・セッションを行っているものなのだが、俺は最初はジミー・ペイジを目当てに見ていた。だけどジャック・ホワイトの音楽へのこだわり、なんて言ってたのか今は思い出せないけど、それを見ていて若いミュージシャンなのに考え方がアナログで良いなと思った。そこからずっと心の片隅に残るようになっていた。その後彼のソロ・アルバム"Blunderbuss"の評判がいいのでこれも気になりながらもずっと未聴で、そんな中ふと、彼が以前組んでいたザ・ラカンターズのアルバムを聴く機会を得た。これが非常に良く、そこから俺はウィキペディアでジャック・ホワイトのことを読んだりして、その中でこのデッド・ウェザーの事を知ったのだった。だからこのアルバムを聴いたのはつい最近の事だと正直に告白しておく。

ザ・デッド・ウェザーを結成してこのアルバムを出した2009年というのはホワイト・ストライプスもまだ同時進行でやっていたってことになる。何せこのアルバムの日本盤についてAmazonを見ると「『ホワイト・ストライプスの新作までの繋ぎのプロジェクトだしね』なんて侮るなかれ」などと書かれている。ここでさらに白状すると、俺はホワイト・ストライプスも聴いていない。昔一度聴いてみようとしたが、何曲か聴いて好みじゃないと判断してしまったんだ。だからザ・デッド・ウェザーの立ち位置やこのアルバムが出た時の周りの反応なんてものもまったくわからないし、当時はきっと何の興味もなかったと思う。それが今になってなんだよって自分に突っ込みを入れたいぐらいだ。

さて、このアルバム、最近では珍しく邦題なんてついているわけだけど、結論を言ってしまうと俺好みのオドロオドロしたロックである。ガレージ・パンクやブルースの影響を残しつつ、ジャケットの貞子よろしく暗黒系な雰囲気を醸し出している。翌年リリースした"Sea Of Cowards"を聴いてしまうとこのアルバムはまだ手探り状態という感じもしなくないがそんなことはどうでもいい。UKロックがニュー・ウェイヴ以降を引きずっているような印象のバンドばかりというのと比べると、やはりアメリカのバンドのほうが俺には合っているなと思ってしまう。幅が広いんだよな。

なお、ジャック・ホワイト関連で『ゲット・ラウド』およびザ・ラカンターズについて教えてくれたSさんへこの場を借りて感謝!(h)

【イチオシの曲】Hang You From The Heavens
最初にシングルとしてリリースされた曲がこれのようだ。

2013年4月21日日曜日

ヘルメット / ストラップ・イット・オン


ヘルメット / ストラップ・イット・オン

Helmet / Strap It On (1990年リリース)
①Repetition ②Rude ③Bad Mood ④Sinatra ⑤FBLA ⑥Blacktop ⑦Distracted ⑧Make Room ⑨Murder

ヘルメットというバンドについて、大きい括りで言えばオルタナティヴロックということになるだろう。無機質でハードなサウンド故、ジャンクとかノイズとかいう言葉を使って紹介されるが、これらは耳障りで機械的な音を出す、あるいは/または、即興性の高い楽曲を創ったりする人たちを指す言葉だと思われる。奇をてらうようなことをせず、きっちりと構築、コントロールされたヘルメットのサウンドに対し、ジャンク、ノイズと形容するのはどうもスッキリしない。個人的にはポストハードコアという言葉がしっくり来るけど、この言葉も適用範囲が広すぎて何の説明にもなっていないような。ちなみに英語版Wikipediaでは、オルタナティヴメタルということになっている。ところで「ジャンク」というある音楽カテゴリを指す言葉は、「メロコア」と同じく日本で作られたもので日本でしか通じないから注意が必要だ。

言葉遊び的なことをツラツラと書いてしまったが、ヘルメットを一聴するとやはりメタルな印象が強い。しかし、その音にはハードロックであるとか、ヘアメタルであるとかとは一線を介した緻密さやストイックさがあり、もっと言うと機械的で冷たく、打込みに近いような硬いサウンド、リズムからは、情緒や人間性すら排除されているように感じる。見た目もハードロックやメタルからはかけ離れていて、短髪Tシャツジーンズスニーカーと、グランジ/オルタナティヴのムーブメントの一翼を担う存在だった。メタル的でありながら、メタルとは異なる存在。オルタナティヴメタルという言葉に相応しい。

この1stアルバム『ストラップ・イット・オン』は、90年にアンフェタミン・レプタイルからリリースされた後、91年にインタースコープから再リリースされた。荒削りながら、この1stアルバムの時点で既にサウンド、楽曲の根幹は確立されているのは、中心人物のペイジ・ハミルトンがキチンとした音楽の教育を受けていることも関係しているだろう。ハードロックやへヴィメタルとは無縁と思われがちな音楽理論といったものに裏付けられた楽曲は、当時としては真新しく、ニューメタルとかモダンヘヴィネスとか言われるような90年代以降に登場したメタルバンドに与えた影響は計り知れない。

90年代初頭のグランジ/オルタナティヴの流れに乗り、この1stアルバムに続いて92年にリリースされた2ndアルバム『ミーンタイム』でヘルメットは早くも成功を収める。94年リリースの3rdアルバム『ベティ』は、ジャケットも含めより広い層にアピールできる判りやすさもあった。4thアルバム『アフターテイスト』を97年にリリース後、98年には一度解散するが、04年に活動を再開。結局はヘルメット=ペイジ・ハミルトンであり、ヘルメットはメンバーを入れ替えながらも現在まで精力的に活動を継続している。また、ペイジ・ハミルトンの趣味なのか、参加する企画盤のカバー曲の選定がなかなか興味深い。Black SabbathやLed Zeppelinといったハードロックやメタル系は想定の範囲内だが、Bjorkの'Army of Me'、はたまた鉄人28号の海外版"Gigantor"のテーマまでもカバーしている。

ヘルメットを未聴で興味を持たれた方は、まずはとっつき易い『ベティ』あたりから是非聴いてみてほしい。最後に、今回ヘルメットを取り上げた動機のひとつは、㌻・ハミル㌧って書きたかったことを白状しておく。(k)





2013年4月14日日曜日

ユートピア / トッド・ラングレンズ・ユートピア



Todd Rundgren's Utopia(1974年リリース)
①Utopia Theme ②Freak Parade ③Freedom Fighters ④The Ikon

トッド・ラングレンは高校生の頃にロック名盤ガイド的な本でディスコグラフィを読みながら、いつか聴いてみたいと思いつつも未だ聴いていないアーチストの1人だ。タイミングを逃していると言えばそれまでだけど、この人の楽曲は基本はポップ・ミュージックのような印象があって、その時々で俺が求めているロックとは違うんだろうなという偏見も加わっているというのが正直なところ。そんなんで25年以上が過ぎているし、恐らく今後も進んで聴くことがないのかもしれない。不意に何かのきっかけで曲を聴いて「これ良いね」ってならない限りは。

そんなトッド・ラングレンがらみで唯一聴いているのがこのユートピアのデビュー・アルバム。なぜこのアルバムだけは聴いているのかというと、プログレをやっているからだ。10代後半からプログレを聴くようになり、先のロック名盤ガイドでもこのアルバムをプログレと形容していたことから興味を持ったわけだ。実際に聴いたのはもうちょとしてからだったけど、イギリスのプログレバンドよりもプログレっていて俺はこのアルバムがかなり好きだ。まず①はライヴ録音なのだが、もう初っ端から「どプログレ」な演奏。キーボード奏者が3人いるらしいが、もう狙っているとしか思えん。演奏時間も14分あり、ヴォーカルが出てくるまで7分ぐらいかかる。続く②はどことなくフランク・ザッパっぽくもある曲でこれも10分ぐらいある。③は4分程度の曲だけどプログレっぽさを醸し出している。アナログ時代はここまでがA面で、B面にあたる④はなんともまあ驚きの30分もある曲。そう、俺はこの④が30分という記述を見て非常に興味を持ったのですよ。いったいどんな曲だよって。

先ほどからプログレと言っているけど、プログレと言えばやはりイギリスのバンドの方が元祖(?)であって、実際にトッド・ラングレンもこのバンドを結成する前にイエスなどに夢中になっていたらしい。個人的な感想だけど、本家イギリスのプログレとアメリカン・プログレってどこか違うよなって思っていて、イギリスのは様式美のようなものを感じるのだけど、アメリカのそれはとにかくいろいろ詰め込んでやれって感じがしてしょうがない。テクニックに任せてやりたい放題というか、そんな印象がしてしまう。④なんて30分もあるけど展開がコロコロ変わるから退屈しないし、いつの間にか聴き終わっているって感じ。特に今の俺はイギリスのバンドによるプログレが重々しく感じてしまって、むしろこっちのほうが聴ける身体になってしまっている。以前は逆だったんだけどね。

それにしても、気になるのはこのアルバムの収録時間。トータルで59分、CDとなっている今では何てことはない長さだけど、アナログ時代だとA面B面それぞれ30分前後だったわけで、アナログレコードって片面が25分を超えてしまうと音もあまり良くないなんて言われていたし、18分ぐらいがベストじゃなかったかな?そんな時代にずいぶん長時間収録をしたよなって思ったりして、トッド・ラングレンって人はオーディオ的には細かいことは気にしなかった人なのかなと思ってしまう。確か彼のソロ・アルバムでも長時間収録のものがあった気がするけど。

ちなみにこのユートピアってバンドは、トッドがソロ活動と並行して1973年から1986年までやっていたんだよね。80年代のアルバムはリアルタイムで雑誌のレビューに載っていたのとか、ビートルズの曲の雰囲気を真似たアルバムもあったりする。今これを書いていて急に思い出した。トッドのソロはいいからユートピアを揃えようかな。(h)

【イチオシの曲】Utopia Theme
この曲がいちばんわかりやすいからね。トッド・ラングレンがやたらと細いな。



2013年4月7日日曜日

エラスティカ / エラスティカ



Elastica / Elastica(1995年リリース)
①Line Up ②Annie ③Connection ④Car Song ⑤Smile ⑥Hold Me Now ⑦S.O.F.T. ⑧Indian Song ⑨Blue ⑩All-Nighter ⑪Waking Up ⑫2:1 ⑬Vaseline ⑭Never Here ⑮Stutter

NWOBHM(New Wave of British Heavy Metal )という言葉がある。英国で70年代後半に登場したハードロック/ヘヴィメタル界隈のバンド達を指す言葉で、メタル好きなら一度は耳や目にしたことがあるのではないか。このように音楽のカテゴリーと言うか、音楽のムーブメントを指す言葉はいくつかあるが、その中で個人的にお気に入りなのがNWONW(New Wave of New Wave )だ。同じような界隈を指す言葉は、他にもポストパンクとかポストニューウェーヴとかニューウェーヴリバイバルとかなんて表現もあったりして、むつかしくてもうなんか訳が分からない。その中でもNWONWのちょっとマヌケっぽい言い回しが大好きなんだけど、ブリットポップという言葉に飲み込まれてしまい、あまり言及されることがないように思う。

そのマヌケな言い回しに含まれるバンドのひとつがエラスティカだ。この1stアルバム『エラスティカ』には、その楽曲にもサウンドにも贅肉が一切なく、中心メンバーのジャスティーン・フリッシュマンの眉毛よりも体臭(想像)よりも全てが濃く濃縮されている。その一方、まだまだ改善の余地がありそうな演奏力やインディー臭さも含め、ニューウェーヴとかブリットポップとかいう括りを抜きにしても一枚のロックアルバムとしてもう少し評価されても良いと思っている。ジャスティーンのルックスは好みが分かれるところだとは思うが、ドナ・マシューズ、アニー・ホーランドと、ギターやベースをぶら下げた女性3人が並ぶ姿は画になる。下に貼ったYouTubeの動画は、2種類作られた③のPVのひとつなんだけど、状態が良いものがYouTubeにはないようで残念。これは⑪のPVを作った時の素材を繋ぎ合わせただけみたいで、決して出来の良いものではないんだけど、ジャスティーンの苦虫を潰したような顔がリピートされるとこが堪らなく好きた。そして、ドナがただただひたすらに可愛い。アニーは箸休めで、唯一の男であるドラマーはどうでもいい。

本作がリリースされた90年代中期はブリットポップが全盛で、ジャスティーンは、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったブラーのデーモン・アルバーンとの恋愛や、スウェードのブレット・アンダーソンとの過去の関係などが話題を集めた。ブラーは今年2013年3月から9月にかけて、香港、台湾、日本、ジャカルタを含む世界各国で20回以上の公演が発表されている(が、残念ながら出演するはずだったTOKYO ROCKS 2013の開催自体がキャンセルされたため、来日の予定はなくなった)。再結成したスウェードは2013年になって新作『ブラッドスポーツ』を発表した。このようにブラーやスウェードがメンバーの脱退や活動停止、解散などの苦難を乗り越えながら今もなお最前線で活動を続けているのに対し、エラスティカは2ndアルバムをリリースするもドナ・マシューズの脱退などメンバーチェンジを繰り返した末に解散してしまい、その後のメンバーの音楽的な活動が話題になることもない。本当に寂しい限りだ。

本作で聴けるタイトでソリッドな曲達は、彼女たち、特にジャスティーンの積極性、勢いを感じさせるものであった。一方、シングルCD『コネクション』の3曲目に収録されている⑨"Blue"のデモ音源は、本アルバム収録の音源と同じ曲とは思えない繊細さと寂しさで溢れている。ドナの弾き語りによる宅録状態ゆえの劣悪な音質ですら、その良さを引き立てることに貢献しているような代物で、今でも大好きな1曲だ。この音源を聴いてしまってから、エラスティカの解散やジャスティーンのことよりも、ドナのその後の音楽キャリアがよくわからないままなのが残念でならない。(k)