2013年1月27日日曜日

イーノ / ヒア・カムズ・ザ・ウォーム・ジェッツ


Eno / Here Comes The Warm Jets(1974年リリース)
①Needles In The Camel's Eye ②The Paw Paw Negro Blowtorch ③Baby's On Fire ④Cindy Tells Me ⑤Driving Me Backwards ⑥On Some Faraway Beach ⑦Blank Frank ⑧Dead Finks Don't Talk ⑨Some Of Them Are Old ⑩Here Come The Warm Jets

ロキシー・ミュージックをアルバム2枚で脱退したイーノはすぐにソロ・アルバムのレコーディングを開始する。そして1974年にリリースされたのがこの『ヒア・カムズ・ザ・ウォーム・ジェッツ』である。名義はイーノ。

イーノというと俺は、70年代のデヴィッド・ボウイのベルリン三部作(『ロウ』『ヒーローズ』『ロジャー』)や、80年代のU2の『焔』『ヨシュア・トゥリー』などのプロデューサーとしての仕事のことを先に知った。次に「環境音楽」の創始者として、そしてロキシー・ミュージックのメンバーだった、という順番で知ったと思う。10代のころから何度も目にしてきた名前だったが、ソロ・アルバムを聴くという機会はなかなか無く、90年代の『ナーヴ・ネット』というアルバムを唯一聴いていたという程度。その次に聴いた音源がWindows95の起動音だったとは後になって知ったけど(笑)。やはり環境音楽というジャンルが俺には難解なイメージを与えていたのは否めない。いや、環境音楽自体は普段の生活の中で聴きながすことができる音楽だというのは分かっていたが、それを小難しく、論理的に実施しているような気がして難しく考えてしまっていた。

そんなイーノの音楽についての俺の偏見を変えてくれたのが、前回のロキシー・ミュージックのところでも書いた『ベルベット・ゴールドマイン』という映画のサントラにも収録されていた①だった。アンビエント系にありがちな低くこもったヴォーカルではなく、声を張り上げたイーノのヴォーカルにびっくりだった。ロックンロールじゃないかと。個の他にもロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラが別プロジェクトとして始めた801のライヴ盤で聴ける③などもあって、イーノのロック・アルバムに興味を持ったわけだ。このアルバムにはキング・クリムゾンのロバート・フリップやジョン・ウェットンなどが参加していて、さらには自分をクビにしたブライアン・フェリーを除くロキシー・ミュージックのメンバーも全員参加している。一聴すると非常に風変わりなロックを展開している。

①はイーノ流のロックンロールで、ロキシーのアルバムに入っていてもおかしくない感じ。②ではイーノの素っ頓狂なヴォーカルが良い。③のロバート・フリップによる「スネーク・ギター」がほぼメインのような曲。ヴォーカルはちょっとだけ。④はイーノによるシンセサイザーの音が強烈だったりするがポップ。⑤はエキセントリックなピアノの演奏とイーノの大げさなヴォーカルの組み合わせが最高。⑥はアルバム中最もおとなしい演奏って感じがする。インストゥルメンタル主体でヴォーカルはちょっとだけ。⑦はボ・ディドリー・ビートだねこれは。⑧はバックの「オー・ノー、オー・ノー、オーノオーノオーノー!」ってコーラスが間抜けで笑ってしまう。曲の終わりのノイズみたいな音は今ならベックあたりがやりそうな感じ。⑨は厳かな中にも実験的な雰囲気を感じる。そしてタイトル曲⑩では前の曲のバックで鳴っていた音をそのまま引継ぎ、徐々に高揚していく感じで終わる。

アルバム全体を通して聴くと「とにかく変!」と思ってしまうが、これはクセになってしまう。ロキシーの1stも風変わりではあるが、俺はさらに風変わりなこっちのほうが好きだ。イーノはロック・アルバムを3枚出した後に環境音楽を推し進めていくようになるが、どういうフォーマットであれ唯一の存在感があるんだよね、この人は。それにしても、ロキシーでデビューした当時はてっぺんハゲにしてロン毛って、まるで落武者のようなルックスだったのに、グループ内でいちばんの人気だったっていうんだけど、それってどうなんだ?(h)

【イチオシの曲】Baby's On Fire




2013年1月20日日曜日

ロキシー・ミュージック / Roxy Music


Roxy Music(1972年リリース)
①Re-Make/Re-Model ②Ladytron ③If There Is Something ④Virginia Plain ⑤2HB ⑥The Bob (Medley) ⑦Chance Meeting ⑧Would You Believe? ⑨Sea Breezes ⑩Bitters End

学生の頃、当時の友人Aが別の友人Bにこのような質問をしていた。「ロキシー・ミュージックってどんな音楽なの?」と。友人Bはロキシーの音楽性について説明してあげたようだが、友人Aはどうも釈然としない。そりゃそうだ、Bはロキシー・ミュージックがどういう音楽をやっているのかを説明したのだが、質問をしたAは「ロキシー・ミュージック」というジャンルがあるのだと思って聞いたそうだ。「カントリー・ミュージック」とか「ポップ・ミュージック」と同じような意味で。当時はそれを聞いて笑ってしまったが、名前だけ聞いたら数ある音楽ジャンルの1つと間違えてもおかしくはない。実際、ロキシー・ミュージックってどういう音楽をやっているのかと問われると答えに悩む。後期の『アヴァロン』なら英国産のAORまがいな音楽と言ってしまえばなんとなく説明がつくが、初期の彼らの音楽性については何て答えたらいいのだろうか?デビュー当初はメンバーの派手ないでたちやデヴィッド・ボウイのジギー・スターダスト・ツアーの前座なども行っていたことからグラム・ロックの一派で括られるが、それはどちらかというとファッション的な部分の説明だ。

ロキシー・ミュージックはブライアン・フェリーがバンドメンバーを集めたところから始まる。この期間中に彼はキング・クリムゾンのヴォーカル・オーディションを受けて落ちたという経緯がある(同じオーディションにエルトン・ジョンもいた)。バンドは何度かメンバーの入れ替えがあり、デビュー時のメンバーはフェリー(ヴォーカル)、アンディ・マッケイ(サックス)、フィル・マンザネラ(ギター)、ポール・トンプソン(ドラム)、そしてブライアン・イーノ(シンセサイザー)で、ベーシストは固定メンバーではなかった。このラインナップになる前、マッケイは当初はシンセ奏者として加入したが、イーノが後から来たことで木管楽器に移ったし、マンザネラはイーノの助手としてサウンドミキサーとしてやってきたのに、ギタリストが脱退したことでギターを担当するようになる。どのパートも最初から専任というわけではなく、このため初期の彼らはノン・ミュージシャンの集まりなどと言われる。そしてデビュー前のミュージシャンによくあるライヴハウスのドサ回りのようなこともせず、数度のライヴでフェリーをオーディションで落としたEGレコードに見初められて契約を結んだ。

このデビュー・アルバムではそのノン・ミュージシャンぶりが発揮されていると言ったら言い過ぎかもしれないが、①を聴くとついそう思ってしまう。ノリとしてはロックンロールなのだが、フェリーのヴォーカルの後ろではマッケイのサックスが一定間隔で同じ音を鳴らし、マンザネラは好き勝手にフレーズを弾いているようで、イーノはさらにノイズを鳴らす。タイトルが示すようにそれまでのロック・ミュージックを解体して再構築したような感じではあるが、最後は無理やり収拾をつけて終わらせているような感じが良い。③はアルバム中のお気に入りの1曲であるが前半と歌部分から後半のインスト部分への流れが強引に感じるところがあるし、⑥の断片的な曲のつぎはぎな感じなど、全体的に良い意味での素人臭さのようなものがあるが、同時にフェリー(だと思うが)の美学が貫かれていると思う。また、ジャケットも当時は話題となったようで、通常バンドのデビュー・アルバムというのはメンバーのポートレイトかロゴとか訳のわからないデザインが多いが、見ての通りモデル(女優のカリ・アン)を起用し、その後のアルバムでも女性(たまに元男性である女性)がそのアルバム・ジャケットを彩っている。そして曲名のつけ方も⑤は鉛筆の濃さのようだが、邦題が「ハンフリー・ボガードに捧ぐ」とあるので、ああなるほどとなるし、⑥に至っては「ボブ家」についてかと思いきや"The Battle Of Britain"の略だそうだ。とういか、ボブ家ってなんだよw

そういえば②⑤⑩は1998年の映画『ベルベット・ゴールドマイン』で劇中の架空のバンドがカバーしていて、俺はそっちを先に聴いていた。後になってロキシーのこのアルバムを聴いて思ったが、やはり所詮カバー、ロキシーの持つ妖しさや美学のようなものまでは再現できていなかったな。

ロキシーは2枚目のアルバムのA面をクリス・トーマスにプロデュースさせることでポップな面を徐々に取り入れていく。そして「ノン・ミュージシャンは2人も要らない」とフェリーが言ったとかでイーノが脱退してしまう。フロントマンであるフェリーよりもイーノの方が人気があったと言うが、そのことに対する嫉妬と、アルバムのコンセプトを描いているフェリーにとってはイーノは不要となったのだろう。よってこのデビュー・アルバムは2人のブライアンのバランスを確認できる数少ない1枚であるということだ。(h)

【イチオシの曲】Re-Make/Re-Model
本文で記載したとおり。途中で各メンバーが順番にソロを取るのだが、「ピーター・ガンのテーマ」やビートルズの「デイ・トリッパー」などのフレーズが飛び出すのがいかにも再構築って感じですね。あとは曲を聴いて。



2013年1月13日日曜日

スティーヴ・ミラー・バンド / 未来の子供たち


Steve Miller Band / Children Of The Future(1968年リリース)

①Children Of The Future ②Pushed Me To It ③You've Got The Power ④In My First Mind ⑤The Beauty Of Time Is That It's Snowing (Psychedelic B.B.) ⑥Baby's Callin' Me Home ⑦Steppin' Stone ⑧Roll With It ⑨Junior Saw It Happen ⑩Fanny Mae ⑪Key To The Highway ⑫Sittin' In Circles

スティーヴ・ミラー・バンドというと、80年代に「アブラカダブラ」という曲が全米No.1になったというのが認識の大部分を占めていて、あとは70年代の『ザ・ジョーカー』や『鷲の爪』といったアルバムが大ヒットしたというぐらいしか知らなかった。だからこのバンドが1966年に結成されて、このデビュー・アルバム『未来の子供たち』が1968年にリリースされていたということに若干の驚きがある。そんなに歴史のあるバンドだったとは。そしてもう1つ驚いたのはサンフランシスコ出身だということ。ずっとイギリスのバンドだと思っていた。

もともとはスティーヴ・ミラー・ブルース・バンドと名乗っていたようで、その名のごとくブルースをメインに演奏していたバンドだったようだ。その後モンタレー・ポップ・フェスティヴァルなどで注目を浴びるようになってコロンビアからレコード・デビューしたとのこと。それだけだったら別に俺は70年代の有名どころのアルバムを聴くぐらいで、ここまで遡って聴いてみることはしなかっただろう。なんとこのアルバムには後にAORの代名詞ともなるボズ・スキャッグスがメンバーとして参加しているのだ。バッグパッカーとして放浪していたとのことだが、どのような経緯でバンドに加わったのだろうか!?今の両者からはなかなか想像できない組み合わせである。

アルバムはアナログで言うところのA面にあたる⑤までは組曲のようになっていて全曲が繋がっている。①のイントロがサイケデリックしているが、②③はそれぞれ1分にも満たない小品でワンコーラス歌われるだけで壮大な④へと繋げられる。そして再びサイケデリックな⑤という、個人的にはかなり好きで一気に聴けてしまう。そしてボズ・スキャッグスは⑥と⑦の2曲を提供。前者は牧歌的なタイプの曲だが、⑦ではボズの甲高いヴォーカルと、スティーヴ・ミラーの激しいギターが聴き所だろう。また、⑨と⑩はドラマーのティム・デイヴィスがヴォーカルをとっている。他はカバー曲のようだ。全体的にはサイケデリックとブルースを混ぜたようなところが多いが、この時期のタートルズやフランク・ザッパの『アブソルートリー・フリー』みたいな趣きも感じられる。

プロデュースはミラーとグリン・ジョンズなのだが、グリン・ジョンズといえばこのアルバムの翌年にはビートルズの悪夢だった「ゲット・バック・セッション」から作られる予定だった『ゲット・バック』のマスターを手がけた人物。それが縁なのか、3枚目のアルバムの製作時にイギリスに渡ったスティーヴ・ミラーはビートルズのメンバーとセッションをしたり、ニッキー・ホプキンスとの録音などを行っていたようだ。そしてその後であるが、ボズ・スキャッグスはこのアルバムのみでソロへ転向。他のメンバーも流動的で1971年にはミラーが交通事故で休養を余儀なくされるというアクシデントもあってバンドとしては決して順調ではなかったようだ。このバンドが大きく化けるのはミラーが怪我から復帰してからということになる。(h)

【イチオシの曲】In My First Mind
このアルバムのA面に当たる最初の5曲は組曲のようになっているのだが、そのハイライトとも言えるのがこの曲。メロトロンを使用した壮大な曲で、ここにたどり着くために最初の3曲が短く作ってあるんじゃないかと思ってしまう。そして続く⑤はその余韻のような感じがする。

2013年1月7日月曜日

ジャコ・パストリアス / ジャコ・パストリアスの肖像



Jaco Pastorius(1976年リリース)
①Donna Lee ②Come On, Come Over ③Continuum ④Kuru/Speak Like a Child ⑤Portrait Of Tracy ⑥Opus Pocus ⑦Okonkole Y Trompa ⑧(Used To Be A) Cha-Cha ⑨Forgotten Love

俺は楽器はやらない。一度ボサノヴァギターを習っていたことがあるが、コードが覚えられず、例え1曲マスターしてもすぐ忘れてしまうのでプレイには向いていないのだと思う。そんな楽器オンチである俺がジャコのことを語っていいのか果たして謎だけど、書いてみる。

そもそも俺がジャコ・パストリアスに興味を持ったのはアルバムからではなく本だった。シンコー・ミュージックから刊行されたビル・ミウコウスキーの「ジャコ・パストリアスの肖像」を何故かロック雑誌のレビューで見て、読んでみたのが始まりだった。当然ジャコの音楽はおろか、彼が後に参加したウェザー・リポートもまだ聴いていなかった。それまでにジャコについて知っていることといえば、その数年前にケンカがもとで亡くなったという記事を、これまたロック雑誌で読んだ程度。今となってはなぜジャコの本を読んでみようと思ったのか覚えていない。ただ、読み始めるとやはり肝心の音楽が聴きたくなり、2番目に買ったのがこの『ジャコ・パストリアスの肖像』(本と同じタイトルでややこしい)だった。

それまで俺はベース・プレイヤーに注目するなんてことは一度もなかった。奏者で聴いていたとしてもジェフ・ベックの『ブロウ・バイ・ブロウ』とか高中正義など、ギタリストの作品だけだった。ベースについては低い音を出す楽器程度の認識だったことをここで正直に言っておく。そんな俺がジャコのアルバムを初めて聴いた時の感想は「ベースじゃないみたい」と思ったことだ。じゃあ何って聞かれても困ってしまうのだが、それまでイメージしていたベースとはまったく異なるものに聴こえた。さらに後になって俺は「ベースが歌っている」と思った。世界中のベーシストが衝撃を受けたと言われているが、プレイヤーではない単なるリスナーである俺にも衝撃的だったわけだ。

収録されているのは全9曲(いまはボーナス・トラックが2曲入っているようだけど、俺のCDには入っていない)。①はチャーリー・パーカーの曲をベースだけで再現し、②ではR&B色を打ち出し、③はそれこそベースがメロディを奏で、④は自作の曲とハービー・ハンコックの有名曲をメドレーのようにし、⑤は当時の妻であるトレイシーに捧げたこれもベースのみの曲。⑥はスティール・パンをフィーチャーした楽曲で、⑦はポリリズムが入ったジャズからはいちばんかけ離れた曲、⑧はベース・ソロ以外での終始早いリフを刻むプレイが聴き所。そしてラストの⑨はベースとしてではなく作曲家としての一面を見せるなど、どれ1つとっても同じような曲が入っていない。実に様々な面を見せてくれるのがジャコのデビュー・アルバムだ。自らを「世界最高のベース・プレイヤー」と呼ぶのも頷ける。

ジャコはこの後にウェザー・リポートに加入し、グループのワールドワイドな成功へと導く。しかしウェザーに参加している頃からプレッシャーによるアルコールやコカインへの依存、そして脱退後から顕著になった精神疾患などで自らの命を縮めていってしまう。しかし一方で『ワード・オブ・マウス』やビッグ・バンドを率いての来日公演を収録した『ツインズⅠ&Ⅱ』などの傑作も残している。正確にはジャコのリーダー・アルバムと言ったらこのデビュー・アルバムと『ワード・オブ・マウス』の2枚のみだろう。1987年に泥酔状態でクラブのガードマンと乱闘にならなければ、今もジャコの音楽を聴くことが出来たかもしれないと思うと非常に残念だ。

プレイヤー目線で語られることの多い『ジャコ・パストリアスの肖像』だが、音楽好きを自称するのであれば聴いておくべき1枚だ。ジャコのベース・プレイはもちろんのこと、楽曲レベルにおいても最高峰の作品であるからだ。(h)

【イチオシの曲】(Used To Be A) Cha-Cha
本文でも書いたが、ベース・ソロ以外では最後までずっと速いフレーズを弾きまくる超人的な曲。前半でベースソロを披露したあとはヒューバート・ローズのフルート・ソロ、そしてハービー・ハンコックのピアノ・ソロが入る約9分間の曲だが、その緊張感が途切れることがないのは間違いなくジャコのリズムによるものだと思う。このベースリフは後にウェザー・リポートに提供した「ティーン・タウン」のインプロヴィゼーションや「リバー・ピープル」にも流用されている。