2012年5月27日日曜日
ジミ・ヘンドリックス / アー・ユー・エクスペリエンスト
The Jimi Hendrix Experience / Are You Experienced(1967年リリース)
①Purple Haze ②Manic Depression ③Hey Joe ④Love Or Confusion ⑤May This Be Love ⑥I Don't Live Today ⑦The Wind Cries Mary ⑧Fire ⑨3rd Stone From The Sun ⑩Foxy Lady ⑪Are You Experienced? ⑫Stone Free ⑬51st Anniversary ⑭Highway Chile ⑮Can You See Me ⑯Remember ⑰Red House
※現行CDの曲順
かれこれ15年以上前の話になるが、当時の仕事で出会った俺よりも5歳ぐらい若い男と音楽の話になった時に彼はこう言った「昔の音楽って聴けないんですよね。聴いていて時々音が聴こえなくなったり、片方だけ小さくなったりするじゃないですか」と。何を聴いてそう思ったのか分からなかったが、その時に俺は「わざとそういう作りになってるんだよ」みたいなことを言ったが彼にはその意図するところがわからなかったようだ。そういう理由で古い音楽を毛嫌いするのはもったいないなと思ったものだ。
俺は10代の頃から60年代、70年代の古いロックにも興味を持って聴いてきたが、ジミ・ヘンドリックスだけはどうも苦手で、アルバムを買っては手放すということを何度か繰り返してきた。でも何が苦手なのかがよく分からないまま40代になってしまった。それが2010年のリマスターで再発されたオリジナルのアルバムを購入してみてその理由がなんとなく分かった。
ジミ・ヘンドリックスがバンドを結成してデビューしたのは1966年、そしてこのデビュー・アルバムをリリースしたのが1967年のことだ。ジャケットの感じからも当時のサイケデリック・ムーヴメントの影響を感じられる。俺がまだ10代の頃は「サイケデリック・ロック」という響きにどことなく惹かれていたけれど、実際にはそれほど好きになれなかった。1960年代の技術だったのだろうけど音を左右にパンするとか、ワウペダルを使った際の音なんかが苦手だったのと、やはりクスリでヘロヘロになってる状態で作られた音ってどこか歪んでるよなって思いがある。そして俺がジミヘンに抱いている印象もよくよく考えるとそういうところに行き着くのだ。例えばこのアルバムに入っている楽曲のいくつかは音が左右に揺れて聴こえるし、それが当時の「サイケデリック」な表現方法の1つだったにしろ、どうにも俺には聴きづらくそれを「音が悪い」と感じていたのではないかと。そう、15年前に会った彼が言ってたことがそのまま俺のジミヘン苦手の理由にもなっていたのだった。
もちろんジミヘンの音楽がそれだけで好き嫌いを決めるほど幅の狭いものではないことは分かっているが、俺にはずっとそういう思いがついてきてしまった。それがどうにか解消されたのが2010年リマスターなのだけど、それは『ボールド・アズ・ラヴ』や『エレクトリック・レディランド』であって、この『アー・ユー・エクスペリエンスト』は今でも若干の抵抗がある。もうこれは音の好みということで片付けてしまいたい。
でも「パープル・ヘイズ」や「フォクシー・レディ」など歴史に残る曲の多くがこのアルバムに収録されているから、そんなことを言いながらもアルバムはよく聴いているという不思議。やはりどこか魅力を感じてはいるんだろうなと自分では思っているし、ジミヘン初心者に勧めるならまずこのアルバムからだろう。(h)
2012年5月20日日曜日
ニルヴァーナ / ブリーチ
Nirvana / Bleach(1989年リリース)
①Blew ②Floyd The Barber ③About A Girl ④School ⑤Love Buzz ⑥Paper Cuts ⑦Negative Creep ⑧Scoff ⑨Swap Meet ⑩Mr. Moustache ⑪Sifting ⑫Big Cheeze ⑬Downer
1990年代初頭に一世を風靡したグランジ。その他の音楽カテゴリと同様、グランジという言葉を的確に定義することは難しい。当時はシアトルを拠点としているバンドというだけでグランジシーンの一部として取り上げられることも多く、ムーブメントの流れに便乗しようと遠路はるばるシアトルに移住してくるバンドすら居たという。
個人的な解釈では、ジャック・エンディーノにより、彼のスタジオであるレシプロカル・レコーディングで録音された当時のサウンドがグランジそのものであると考えている。ジャック・エンディーノの手により創りだされた独特のサウンドは、金銭的、時間的、技術的に限られた環境により必然的に生み出された部分も大きい。にも関わらず、後にフォロワーが登場しそのサウンドを拝借されるまでの存在になろうとは誰が想像できただろうか。同様に当時のバンドのメンバーたちの着の身着のままの古着からグランジファッションなるものが誕生し、高級なアパレルブランド製のネルシャツが登場するなんて悪い冗談にしか思えない。グランジの定義についてもうひとつ条件を付けさせてもらえば、シアトルのインディレーベル「サブ・ポップ」からリリースされた作品であるということも重要かもしれない。
この個人的な狭義のグランジという定義の条件を満たしている作品の一つが、ニルヴァーナのデビューアルバム『ブリーチ』である。ここに収録されているカート・コバーン(当時の綴りはKurdt Kobain)の作った楽曲たちは、大ブレイクしたメジャーデビューアルバム『ネヴァーマインド』に比べればポップではないし、音は汚く、演奏レベルもそう高くはない。しかし、初期衝動的な勢いに頼るだけでなく、人の心を惹くフレーズが必ず用意されている。
その中でも特に、他の重苦しい楽曲と比較して圧倒的にポップなメロディを持つ③は代表曲の一つといっても遜色ない出来栄えだが、大衆性を帯びたこのキャッチーさは保守的なインディペンデントシーンには難色を示す者も居ただろう。また、サウンドが一丸となってドライヴする⑦の歌詞'Daddy's Little Girl Ain't Girl No More'は、マッドハニーの曲「スイート・ヤング・シングス・エイント・スウィート・ノー・モア」のパクリだと非難されたこともあるらしい。デビューシングルのA面となった⑤は、ショッキング・ブルーのカバー。グランジやオルタナティヴといった言葉が一般的になる前の当時のシーンやレーベルは、ニルヴァーナがマッドハニー以上の存在になるとは考えていなかったようだ。
カート・コバーンは結局3枚のオリジナルアルバムを残して94年に自殺してしまう。『ネヴァーマインド』のブレイクでインディペンデントシーンからセルアウトしたと思われていることや、自分が敵視していた存在(教師やレッドネックといった歌詞に登場する人物たち)がニルヴァーナのファンになるという歪み、そしてその結果、自分の居場所がなくなってしまったこと。これらが自殺の原因の一部であろうことは想像に難くない。ファンの存在が負担になっていたとは、ファンにとってはとても悲しいことだ。売れたい/売れたくないという相反する感情、大衆性と芸術性の両立、他人の評価をいちいち気にしてしまうセンシティヴな人物にロックスターは務まらなかった。
このアルバムのリードトラックである①の終わりで繰り返される'You Could Do Anything'というフレーズ。この曲を聴く度に、俺にも何かできたんじゃないだろうかと自問自答してしまう。(k)
2012年5月13日日曜日
セックス・ピストルズ / 勝手にしやがれ!!
Sex Pistols / Never Mind The Bollocks Here's The Sex Pistols(1977年リリース)
①Holidays In The Sun ②Bodies ③No Feelings ④Liar ⑤God Save The Queen ⑥Problems ⑦Seventeen ⑧Anarchy In The U.K. ⑨Sub Mission ⑩Pretty Vacant ⑪New York ⑫EMI
5年ぐらい前のことになるが、レコード・コレクターズ誌で行われた「70年代ベストアルバム」という企画があった。編集部の人たちが得点をつけて選出したものだが、そこで1位になったのがセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』だった。俺もその結果は当然だろうと思っていたのだけど、某SNSではその結果に不満の声が上がっていた。曰く「パンクなんて流行り病みたいなのが1位なんて納得いかない」と。
パンクを理解しない人から見たパンクの印象は、演奏が下手、がなってるだけ、幼稚、くだらないもの、みたいな感じなのだろう。恐らく「納得いかない」と言った人もそういう思いがあったかもしれない。音楽をいろいろと聴いて知ることが多くなると、パンクってものはあまりにも稚拙で否定したくなるものなんだろうね。
ちなみに俺はその某SNSで反論をしておいた「ピストルズの1位には納得です。パンクが流行り病だとしても、60年代後半から70年代半ばまでの巨大化してきたロックの流れをリセットしてしまったんですから。音楽だけでなく、若者の文化までも変えてしまったという点では後世に最も影響を与えていると思っています」と。パンクが登場したのはまさにそういう頭でっかちな音楽思想へノーを突きつけたようなものだと思う。
『勝手にしやがれ』はセックス・ピストルズの唯一のアルバムである。いわゆる音楽通な人たちがどれだけ否定しようがピストルズの存在や言動も併せてこのアルバムがロックの歴史に残ることは揺るぎの無い事実だ。シングル4枚とアルバム1枚でロックの歴史にかなりのスペースを占めるほどのインパクトを残したグループって他にいるだろうか?初期衝動的な部分を見たらビートルズの『プリーズ・プリーズ・ミー』と同じインパクトがあると思うのだけど、ビートルズは良くてピストルズがダメだという人がいるならその理由を教えて欲しいぐらいだ。いや、めんどくさいから聞くつもりはないし、パンクを否定する奴とは話をするつもりもないけどね。それこそ『勝手にしやがれ』だ。(h)
2012年5月6日日曜日
ザ・ビートルズ / プリーズ・プリーズ・ミー
The Beatles / Please Please Me(1963年リリース)
①I Saw Her Standing There ②Misrey ③Anna(Go To Him) ④Chains ⑤Boys ⑥Ask Me Why ⑦Please Please Me ⑧Love Me Do ⑨P.S. I Love You ⑩Baby It's You ⑪Do You Want To Know a Secret ⑫A Taste Of Honey ⑬There's a Place ⑭Twist And Shout
ビートルズは1962年10月に「ラヴ・ミー・ドゥ / P.S.アイ・ラヴ・ユー」でデビューし、続く63年1月には「プリーズ・プリーズ・ミー / アスク・ミー・ホワイ」がヒットしたことによって急遽アルバムを作ることとなった。しかし彼らに与えられた時間はわずか1日で、当時のイギリスのLPレコードは14曲入りが定番だったから、先のシングルを収録してもあと10曲は必要だった。新人バンドで予算やスタジオの都合もあったかもしれないが、アルバムの録音だ!今日だけしか時間取れないぞ!10曲必要だからな!と無茶ぶりされているかのような状況だったのに彼らはそれをやってのけた。10曲を10時間で録音し終えたのだ。
俺はこのエピソードを知って以来、デビューアルバムである『プリーズ・プリーズ・ミー』の聴き方が変わった。それまではアイドル視されていた時代のポップ・アルバムだと位置づけていたのを、ライヴ感溢れるロックン・ロール・アルバムだと感じるようになったのだ。ちょっと裏話を知ったぐらいで単純だなと思うかもしれないが、実際に俺の中ではそう変わったのだから仕方がない。
そう思うようになった理由はやはり「1日でレコーディングをした」というところに尽きる。「曲はどれぐらいある?」とプロデューサーのジョージ・マーティンに聞かれた彼らはデビュー前に数多くこなしてきたライヴのレパートリーを用意し、当時はまだ2トラックの機材だったから楽器ごとの録音ではなく「せーの」で行っていたのだから、ほとんどスタジオライヴの様相だったに違いない。そしてジョン・レノンは当日酷い風邪をひいていたようで、彼の歌う曲は少し鼻にかかった感じにも聴こえる。
ジョージ・マーティンはビートルズがデビュー前にライヴを行っていたキャヴァーン・クラブでの熱気をアルバムに再現しようとしたらしい。そのためにレコーディングは1日しかないと言って、彼らのテンションを高めて臨んだのではないかなとか思ってしまう。実際にアルバムはライヴ感に満ちているし、オーバーダブもほとんど無いから「素」の彼らを感じることができる。まだアイドル視される前の彼らの、ライヴ・バンドとして積み上げてきたキャリアの集大成でもあると思っている。(h)
※この「ライヴ感」はモノラル盤のCDじゃないと感じられない、2009年にリマスターされた際にはステレオ盤となってしまっているのが残念。
2012年5月4日金曜日
レッド・ツェッペリン / Led Zeppelin
Led Zeppelin (1969年リリース)
①Good Times Bad Times ②Babe I'm Gonna Leave You ③You Shook Me ④Dazed And Confused ⑤Your Time Is Gonna Come ⑥Black Mountain Side ⑦Communication Breakdown ⑧I Can't Quit You, Baby ⑨How Many More Times
自分の30年ぐらいにわたる音楽リスナー歴で、最も衝撃を受けたのがレッド・ツェッペリンのこのアルバムである。
中学生の頃(1980年代前半)は全米ヒットチャートで流行っている曲を探しては聴いていたのだけど、雑誌などで過去の名盤特集のようなものを見るようになり、そこから古いロックやポップへ興味を持つようになった。しかし中学生の小遣いではレコードなどそうそう買えるわけもなく、もっぱらFMで録音したテープを聴いていた。ちょうどその頃、レンタルレコードというものが出現しはじめて、高校生になった俺もあるお店の会員になった。そこで聴いてみようと思って借りたのがレッド・ツェッペリンの最初の2枚だった。
俺の記憶では最初にセカンドアルバムを聴いたのだけど、それは「胸いっぱいの愛を(Whole Lotta Love)」をすでに知っていたからだ。当時のツェッペリンの印象としては、ヒットチャートで流行った曲とは作りが明らかに違っていてすごく独特なものを感じていた。よく「ハードロックの元祖」的なことを言われるが、そんな狭い括りでは表現できない多彩な曲が並んでいると思った。
それは1stアルバムに顕著に出ていて、①はあいさつ代わりの小品といったところだが、②ではアコースティック・ギターなのにハードな雰囲気を出し、③はブルースのカバーで、ジェフ・ベック・グループも取り上げていた曲。そして間髪入れずに④へ流れるがこの重さが当時から凄く好きだ。アナログではここまでがA面で、最初の曲以外はすべて6分台という大作ばかり。そしてB面にあたる⑤は教会風オルガンが印象的で、続く⑥はインドっぽいインストゥルメンタル。インドといってもビートルズみたいにシタールを使うのではなく、パーカッションがインド的。⑦は速さやギターのリフから、今のヘヴィ・メタルにも通じるものがある。⑧は再びブルースで、俺はこのアルバムでブルースっていうものがどういうものかを感じた。ラストの⑨はアルバム中最も壮大でハードな展開で突っ走る。そんな9曲が収められていた。
俺がこのアルバムのどこに惹かれるのかというと、それはロバート・プラントのヴォーカルだ。シャウトする高音とその声量がアルバムの多彩な楽曲のどれにもぴったりはまっていることに初めて聴いた時は驚きだった。ハードロックの歌唱の元祖でもあるし。そして聴く前までは単なるハードロックの1バンドに過ぎないだろうと思っていたのに、1stアルバムを聴いただけで世界最高峰のバンドだと確信した。若かりし頃のこととはいえ「単なる」などと思ったりして、今思うと土下座ものだ。
すでにその音楽スタイルは1stアルバムをもって完成していて、ジミー・ペイジも「すべてが1stにあって、後のアルバムはそれをどう展開させていくかだけだった」というようなことを言ってるのを読んだことがある。恐らくアルバム1枚でバンドが終わっていたとしても、これは永遠に聴き継がれるだろうと思っているし、少なくとも俺の中では史上最も優れたロック・アルバムである。俺のロックの基準を作ったとも言えるものだ。(h)
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