2012年8月26日日曜日

ブロンド・レッドヘッド / ブロンド・レッドヘッド


Blonde Redhead / Blonde Redhead (1995年リリース)
①I Don't Want U ②Sciuri Sciura ③Astro Boy ④Without Feathers ⑤Snippet ⑥Mama Cita ⑦Swing Pool ⑧Girl Boy

数年前、テレビからカズ・マキノの歌声が聴こえてきたときは自分の耳を疑った。クリスタルガイザーのCMで、ブロンド・レッドヘッドのアルバム『23』のタイトルトラックが使われていたのだ。

以前レビューを書いたキャット・パワーに続いて、デビュー時にソニック・ユースのスティーヴ・シェリーが一枚噛んでるバンド、ブロンド・レッドヘッド。2011年に引き続き、2012年5月にも来日公演を開催しているが、フロントに立つカズ・マキノが日本人ということを差し引いても長い活動期間のわりに来日の回数は多くないと認識している。個人的には2011年初頭の単独公演で初めてその姿を肉眼で確認することができたが、2002年の来日公演は風邪で、2007年のフジロック・フェスティバルは金欠で、そして2012年の公演は仕事で、てな具合にせっかく来日してくれても足を運ぶことができなかった。このように俺とはあまり縁がないと思えて悲しいけど、とても大好きなバンドなんです。

ブロンド・レッドヘッドという名前は、ニューヨークのノー・ウェーブ・バンドの一角であるDNAの曲名から取られたものであり、カズ・マキノとアメデオの男女2人のヴォーカル、スティーヴ・シェリーとの関係などから、ソニック・ユースを引き合いに出されることが多い。確かに、バンド名を冠したこの1stアルバムに収録されているより即興的、実験的な楽曲やサウンドは、ソニック・ユースを彷彿とさせるものがある。この即興的、実験的と感じられる部分は、ブロンド・レッドヘッドというバンドの個性がまだ定まっておらず、当時バンドが目指すべき方向性を模索していたことを想像させる。ドリーム・ポップと形容されることもある今現在のブロンド・レッドヘッドらしさとは違い、カズ・マキノのヴォーカルスタイルも彼女のウィスパーヴォイスを活かすようなものではない。ライヴ一発録りとまでは言わないものの、レコーディング時の小細工も少なくダイレクトで生々しいサウンドは、いい意味でも悪い意味でも隙間があり、オルタナ大好物の俺には大変心地よく感じる。

デビュー当時のベースを含む4人構成から、紆余曲折を経てベースレスの3人構成となったブロンド・レッドヘッド。もうすぐ結成から20年を迎えるが、今後もイケメンなイタリア産の双子の構築するサウンドと、カズ・マキノの歌声で浮遊感ある夢のような世界へ誘い続けてくれることを期待して止まない。とまあ書いたものの、個人的にはシカゴのレーベルであるタッチ・アンド・ゴーに所属していた頃のアルバムが好きです。この時期のアルバムは、フガジのガイ・ピチョトーをプロデューサーとして迎えている点も強調しておこう。ライヴではあまり過去の楽曲を演奏することはないようで、2002年の来日公演に行けなかったことを今でもとても悔やんでいる。このアルバムにも収録されているような、計算されていない勢いだけのドライヴ感あるサウンドやカズ・マキノのスクリーミングを生で聴くことはできないのだから。

最後に、冒頭のCMを初めて見た時、「ブロンド・レッドヘッドは俺が育てた。」と言えるようなことはなにもしていないものの、誇らしさと同時にメジャーな存在になってしまうことに対する寂しさを覚えたことを正直に告白しておこう。(k)

2012年8月19日日曜日

ザ・ストゥージズ / ザ・ストゥージズ


the stooges (1969年リリース)
①1969 ②I Wanna Be Your Dog ③We Will Fall ④No Fun ⑤Real Cool Time ⑥Ann ⑦Not Right ⑧Little Doll

高校を卒業して英語が勉強したいと専門学校に通いだした俺は常にイライラしていた。怒りの対象が決まっていることもあれば、ただなんとなくイライラしていることもあった。そのやり場のない怒りをぶつける方法もなく、日々フラストレーションばかりが溜まっていった。そんなイライラをロックを聴くことで解消していたわけだが、そんな俺の血を最も沸き立たせてくれたのがイギー・ポップが率いていたストゥージズの2枚目のアルバム"Funhouse"だった。何かの本で「ハタチ前に聴け!」と書いてあって、それに従って19歳の時に入手した。このアルバムほど感情を趣くままに吐き出していると感じたものは無い。今聴いても同じ気持ちになれるし、イライラする時のウサ晴らしにはもってこいだ。

その1年前の18歳の時に入手したのが今回紹介する1stアルバムだった。イギー・ポップという名前はその数年前に"Blah Blah Blah"というアルバムを出していたから名前は知っていたが、音楽を聴いたのはザ・ストゥージズの方が先だった。②や④といった多くのパンクバンドがカバーをしている曲が入っているとか「パンクの元祖」みたいなことが雑誌に書いてあったから興味を持った。あとから聴いた"Funhouse"とは違い、イギー・ポップ(このアルバムではiggy stooge とクレジットされている)の気だるく、だけどどこかイラついた感じのヴォーカルにすっかり魅了された。ストゥージズはデトロイト出身で当時同郷にMC5というグループがいたが、彼らの政治的なアジテーションを含んだ勢いとドアーズのサイケデリックな感じを足して割ったような音楽がこのアルバムでは聴けると思う。

18歳だった俺には②の「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ドッグ」という響きが新鮮で衝撃的だった。お前の犬になりたいとか言ってるけど絶対嘘だろうなんて勝手に決め付け、高校卒業後も電車で見かけるサラリーマンを見てはこういうのが犬だろなんて思ってみたり、専門学校でのイライラを④のタイトルに重ね合わせてみたり、⑥の最後の狂おしいギターに酔いしれたり、このアルバムそしてザ・ストゥージズがパンクの元祖と言われるのは当時の自分のフラストレーションを重ね合わせるとものすごく理解できる。後にパンクバンド達がこれらの曲をカバーしたから元祖っていうのは単純すぎると言わせてもらいたい。そんな意味ではザ・ストゥージズのアルバムはどれも「ハタチ前に聴け!」というのが正しいと思う。

話は変わるが、Amazonでこのアルバムを検索すると「イギー&ザ・ストゥージズ」と表記されているが、このアルバムと"Funhouse"だけは「ザ・ストゥージズ」名義が正しいので、これから聴く人は混同しないようにしてほしい。「イギー&ザ・ストゥージズ」名義は"Raw Power"以降に出たレコードだけだ。(h)

【イチオシの曲】I Wanna Be Your Dog
永遠のパンク・クラシック!他に何を言おうか?いいから聴いておけ。

2012年8月12日日曜日

パティ・スミス / ホーセス


Patti Smith / Horses(1975年リリース)
①Gloria ②Redondo Beach ③Birdland ④Free Money ⑤Kimberly ⑥Break It Up ⑦Land: I)Horses II)Land of a Thousand Dances III)La Mer (De) ⑧Elegie

まだハタチにもなっていなかった俺はパティ・スミスに夢中になった。今でも俺は唯一の女性ロッカーは彼女しかいないと思っている。他の女性ミュージシャンは結局のところ「女」を売りにしているようにしか見えなかったが、パティ・スミスはその辺の男よりも遥かにロックン・ロールを体現してきたと思うし、65歳となった今でもそういう存在だ。

1970年代始めにニューヨークへ出てきた彼女は演劇やポエトリー・リーディングなどを行いながらチャンスを窺がっていた。70年代半ばにもなるといわゆるニューヨーク・パンクの流れが活発になってきて、それまでギターとピアノをバックに朗読を行っていた彼女もロック・バンドを結成する。そして75年に「パンク」と呼ばれるレコードの中で最も早くリリースされたのがこの『ホーセス』だ。以前、テレヴィジョンの『マーキー・ムーン』の時にも書いたがこのアルバムも「パンク」という言葉に囚われるとその音楽性に戸惑ってしまうだろう。ここのアルバムにはロックン・ロールとポエトリー・リーディングが見事に調和された独特の世界がある。

もはやロックの古典とも言える①はゼムのカバー曲であるが「ジーザスが死んだのは誰かの罪を被ったからだけど私のではないわ」と冒頭に歌うことで完全に彼女のオリジナルと化している。初期の活動であったポエトリー・リーディングを思わせる③や⑦の壮大さ、テレヴィジョンのトム・ヴァーレインが参加した⑥など、聴き所は多い。プロデュースは元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルだが、本作をアナログで初めて聴いた19歳の頃の正直な感想は「音が薄っぺらい」というものだった。音に迫力が感じられなくて当時は2枚目の『ラジオ・エチオピア』のほうが断然好きだった。パティ自身もカー・ラジオから流れてきた本作の曲を聴いてその音の薄さに愕然としたなんて話も聞いた。しかしここには当時のニューヨークの空気が封じ込まれているし、ロックで言葉を表現するという彼女の強い意志を感じる。このアルバムを聴いて何も感じないなんて言う人がいるのであれば、ロックなんて聴くのやめちまえよって思う。

このアルバムでもう一つ語っておくべきなのはジャケット。元恋人でもあった今は亡きロバート・メイプルソープが撮ったモノクロの写真。そこに写る男性的な佇まいの彼女の姿、そして眼差しから伝わってくるストイックな緊張感。これも当時のニューヨークのアンダーグラウンドの空気を感じさせてくれて、ロックのアルバムジャケットでカッコいいものと言ったらまず最初に挙がる1枚だと思う。(h)

【イチオシの曲】Birdland
9分以上もあるポエトリー・リーディングで、この曲に彼女の初期の活動の原点を見出せる。朗読の抑揚に合わせてバックの演奏も盛り上がり、一種演劇のようにも思える。これで詩が直接伝わってくればもっと面白いんだろうけどなぁ。


2012年8月5日日曜日

ジャミロクワイ / ジャミロクワイ


Jamiroquai / Emergency on Planet Earth(1993年リリース)
①When You Gonna Learn (Digeridoo) ②Too Young Too Die ③Hooked Up ④If I Like It, I Do It ⑤Music Of The Mind ⑥Emergency on Planet Earth ⑦Whatever It Is, I Just Can't Stop ⑧Blow Your Mind ⑨Revolution 1993 ⑩Didgin' Out

アシッド・ジャズという言葉が出てきたのは90年代最初の頃。当時はロッキング・オンを愛読していたのでとりあえず言葉は知っていたが、それがどんなものなのかはまったく分からなかった。先週のこのブログでも取り上げられたストーン・ローゼス以降のイギリスのロックバンドには興味を持たず、もっぱら古典的なロックばかりを聴いて過ごしていたからだ。アシッドというぐらいだからクスリでもやりながら踊るタイプのジャズなのかと思ってた気がする。それでもロッキング・オンを読んでいたのは、時々俺の好みにピッタリのアルバムに出会うことが出来るからで、ジャミロクワイの1stアルバムなんかはまさにその典型だった。

「『インナーヴィジョンズ』の頃のスティーヴィー・ワンダーを彷彿とさせるヴォーカル」とアルバムレビューに記載されていて、しかも歌っているのは白人というところに大きな魅力を感じた。白人でスティーヴィーみたいなヴォーカルだと!?って思った俺はすぐにCDを探しに行ってこのアルバムを入手した。ジャミロクワイというなんだか怪獣みたいな名前にジャケットに描かれた謎のキャラ、ロッキング・オンのレビューしか情報が無かったからその時は何から何まで謎めいていた。そして家に帰ってきて早速再生。①を聴いただけで大当たりと確信した。打ち込みやサンプリングがフィーチャーされた音楽にも少々飽きてきた俺には、このアルバムの持つファンクなグルーヴにすっかりやられてしまい、何度も何度も繰り返し聴いた。

当時はこれがアシッド・ジャズという種類の音楽に入っているなんて感覚はなく、ただ単に新しいバンドが出てきた程度の認識だった。打ち込みやサンプリングではなく基本生演奏というのは世の風潮と逆行していたような覚えがあるが、やはり生演奏だよななんて1人納得してた。①のイントロではオーストラリアの原住民の楽器、ディジリドゥが使われていて、その存在は知ってはいたけど音を聴いたのはこの曲が最初だった。②は彼らの代表曲だし、③のファンキーさは今でも好きだ。⑧の前半歌、後半演奏ってパターンは何度聴いてもしびれるし、ディジリドゥをフィーチャーしたインストゥルメンタル⑩で締めるなど、非の打ち所の無いアルバムだと思う。今も彼らの最高傑作ではと思っている。

歌詞も環境問題や社会問題を歌っているストイックさが取り上げられていたが、まあ後にヴォーカルのジェイ・ケイはフェラーリを乗り回していたりで矛盾してるじゃないかなんて言われてたりしていた。でも少なくとも1993年の時点で彼が思っていたことを歌っていたんじゃないかと思う。後にはアシッド・ジャズに留まらない多用な音楽性で大成功をおさめているけど、今ではジェイ・ケイの1人プロジェクトのようになっていて、このアルバムのようなマジックは2度と作れないだろうというのはもしかしたら本人がいちばんよく分かっているかもしれない。(h)

【イチオシの曲】Blow Your Mind
甘いメロウなグルーヴ!8分以上もある長尺ナンバーだが、前半ヴォーカルパートが終わった後、今度はインストゥルメンタルを聴かせてくれるところがクール。そんなやり方が俺には70年代的に思えて今もいちばん好きな曲(70年代的というのは特に根拠はないけどね)。