2013年5月19日日曜日

ジェームス・イハ / レット・イット・カム・ダウン


ジェームス・イハ / レット・イット・カム・ダウン

James Iha / Let It Come Down (1998年リリース)
①Be Strong Now ②Sound of Love ③Beauty ④See the Sun ⑤Country Girl ⑥Jealousy ⑦Lover, Lover ⑧Silver String ⑨Winter ⑩One and Two ⑪No One's Gonna Hurt You

ジェームス・イハ。井葉吉伸(いはよしのぶ)という名前と、日本人にも親しみやすいルックスを持つ一方、彼は日本語が話せない。彼のことはスマパン(ザ・スマッシング・パンプキンズ)の日系ギタリストと言った方が通りがいいだろう。そんな彼がスマパンの4thアルバム『アドア』より数か月早くリリースした初めてのソロアルバムが本作『レット・イット・カム・ダウン』だ。

スマパンからメンバーが次々と離脱していく様を寂しく見ていたファンの一人としては、スマパンとは大きくベクトルの異なるこのアルバムは驚きだった。このアルバムがスマパン在籍時の数少ない彼の手による曲の延長にあることは間違いない。後のア・パーフェクト・サークルやティンテッド・ウィンドウズへの参加、デザイナーやレーベル運営といった彼の多岐に渡る活動を見るに、スマパンのギタリストというだけでは彼の可能性が制限されていたことがよくわかる。彼のスマパンとの決別は必然だったのかもしれない。

スマパンの元ギタリストという枕詞は要らない。彼が愛について歌っている。ラブソングばかり。こっちが恥ずかしくなるくらい。日本語でやられたら俺は聴いていられないだろう。でも俺を惹きつけて離さない。俺の琴線にビシバシ触れるメロディが溢れている。それは彼の日本人の血によるものなのか。優しく温かく全てが控えめでお互い主張しないサウンド。そのエヴァーグリーンなサウンドが心に沁みる。今でもたまに聴きたくなる。そんなアルバム。悪く言えば技術的には何ら注目されるようなことはしていない。

ウィキペディアによると、このアルバムに収録された曲たちはスマパンのツアー中のホテルで作ったことが影響し、ラウドに演奏するようなものにはならなかったとのこと。その一方、2012年にリリースされた2ndアルバム『ルック・トゥー・ザ・スカイ』はこの1stアルバムを踏襲したものであり、自分の歌声はロックというフォーマットには適していないという彼の判断なのかもしれない。

因みに、98年リリース当時の日本盤にはボーナストラックとして'My Advice'が収録されており、2ndアルバムのリリースに合わせてリマスタリングされ再発された際には'My Advice'に加えて'Take Care'、'Falling'が追加された。この3曲はシングルカットされた①のCDに収録されていた音源である。また、このアルバムには多くのゲストミュージシャンが登場するが、中でも③には俺の大好きなヴェルーカ・ソルトの片割れであるニーナ・ゴードンがコーラスで参加している。これよりも前に彼女はスマパンの'...Said Sadly'という彼の手による曲にも参加しており、自分が好きなミュージシャン同士に繋がりがあることは単純に嬉しかったりする。

2ndアルバムリリースまでには14年ものインターバルがあったにも拘らず、フジロックフェスティバル'12出演に続き開催された来日公演はチケットがソールドアウト。スマパンとは関係なく彼がアーティストとしてキチンと支持を得られている証拠だろう。ビリー・コーガンがその存在が大きくなりすぎたスマパンという怪物に孤軍奮闘しながら苦しんでいるのに対し、自分のペースで身の丈に合った成功とともに確実なキャリアを積んでいくジェームス・イハの選んだ道を俺も支持したい。(k)



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