2012年7月1日日曜日

フィオナ・アップル / Tidal


Fiona Apple / Tidal (1996年リリース)
①Sleep To Dream ②Sullen Girl ③Shadowboxer ④Criminal ⑤Slow Like Honey ⑥The First Taste ⑦Never Is A Promise ⑧The Child Is Gone ⑨Pale September ⑩Carrion

今年、7年ぶりとなるアルバム"The Idler Wheel"をリリースしたフィオナ・アップル。すでに16年のキャリアがあるが今回のアルバムはまだ4作目という寡作ぶりで、彼女がデビューしたのは1996年、18歳の時だ。

俺は90年代以降の(そして今もだけど)時流に沿った音楽に疎かったため、フィオナ・アップルを最初に知ったのは2枚目の『真実』がリリースされた時だった。『真実』のギネスブックにも載った長いアルバムタイトル(※Wikipedia参照)に興味を惹かれて聴いてすぐに気に入り、そこから自然と1stアルバムを手に入れたのだけど①のイントロの重さ、そして彼女の低いヴォーカルに圧倒されてアルバムのほんの数十秒で一気に惹き込まれてしまった。これほどまでに声で説得力を感じさせるヴォーカルを聴いたことがなかった。俺はこういうヴォーカルを聴きたかったんだという思いもあったと記憶している。

フィオナ・アップルは歌手の母と俳優の父の娘として生まれた。幼少の時からピアノを弾くようになり、11歳になるころには自作の曲も持っていたらしい。無口な性格で感情を表現する手段がピアノを用いて曲を作ることだと語っていることもあり、表現者としての資質は早くも持っていたのであろう。そして彼女は16歳の時に作ったデモテープを音楽業界の重役の家でベビーシッターをしていた女性に渡したことからデビューのきっかけを得た。こうして発表されたのがこのアルバムであり、6曲がシングル・カットされて全米では300万枚の売り上げを記録したことで彼女は一躍スターダムにのし上がった。しかし彼女の本来の性格と、世間でのパブリックイメージのギャップに悩まされることになり、MTVで賞をとった際のスピーチでは音楽業界を批判する言葉を述べたりして距離を置くようになった。

ここに収められている曲はすべて彼女が実際に体験したことがモチーフになっているのだろう。「他人が歌ったのでは意味を成さないから」と語っているし、②は彼女が12歳の時のレイプ体験がもととなっているとのこと。訳詞を読む限りでは他の18歳の女の子よりもはるかに多くのことを感じ、体験しているように思える。彼女のヴォーカルから放たれる重みや余計な装飾がない音楽を聴いていると、歌手というよりも表現者という言葉のほうが相応しく思えるし、聴くほうもそれなりの体力を必要とする。決して男女がヘラヘラしながら一緒に聴くというタイプの音楽ではないのは確かだ。そしてこの時点ですでに彼女の音楽性は完成されていて、それが証拠に16年間で発表した4枚のアルバムのどれを聴いてもまったくブレがない。

俺が経験していない残念なことのひとつに、このアルバムをリアルタイムで聴いていなかったことがある。そして俺が経験している素晴らしいことのひとつとして、このアルバムを今も聴き続けているということ。そのぐらい出会うことができて良かったと思えるアーチストだ。(h)

【イチオシの曲】Shadowboxer
この曲は昔の恋人への想いが歌われていて、英語だから本質的な部分は分からないのだけどそのやるせなさがものすごく伝わってくる。元恋人の一挙一動を再び受け入れたいけど結局は手が届かないことをシャドウボクシングに例えている曲。もしかしたら彼女の曲の中でも5本の指に入るぐらい好きかもしれない。

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