2013年6月9日日曜日
ティアーズ・フォー・フィアーズ / ザ・ハーティング
Tears For Fears / The Hurting(1983年リリース)
①The Hurting ②Mad World ③Pale Shelter ④Ideas As Opiates ⑤Memories Fade ⑥Suffer The Children ⑦Watch Me Bleed ⑧Change ⑨The Prisoner ⑩Start Of The Breakdown
ティアーズ・フォー・フィアーズ(以下TFF)の2人の写真を最初に見たのは彼らの大ヒットした2ndアルバム"Songs From The Big Chair(邦題『シャウト』)"で、それを見た時に俺は何故かこの2人をナイーブな人たちなんじゃないかと思った。なぜそう感じたのかは今では覚えていないが、それはこの1stアルバムを聴いて、あながち外れてはいないなと思った。
TFFの2人、ローランド・オーバザルとカート・スミスは共に両親が離婚した家庭で育ち、学生時代に意気投合してバンドを始めたという。片親しかいないというのが2人にとってはある種のトラウマだったのか、この時期の彼らの音楽の原動力となっていたそうだ。それがこの1stアルバムには表れていて、曲のタイトルからもハッピーな要素はどこにもない。アルバム・タイトルからして「痛めつけること」だし、そのせいかどうしても全体的に「痛み」を伴う雰囲気に覆われているような印象を受ける。俺はその内省的な内容はジョイ・ディヴィジョンに通じるものがあると思っているけど、両者の見られ方かして、これは多くの人に否定されそうな気がする。ジャケットは⑥に合わせているのだろうか。発表当時は川辺で佇む2人の写真だったけど、いつのまにか変更されていた。そんな内容ではあるけど、イギリスでは②③⑥がヒットしたことでアルバムも1位を記録した。俺は『シャウト』でTFFを知り、最初はレコードをレンタルしたきたのだけど、モノクロの2人のポートレートが好きですぐに輸入盤のアルバムを買ってきた。それと同じころにこの1stアルバムも聴いたけど、TFFの本質を感じたのは1stだったような気がする。シンセポップとアコースティックをうまくミックスした楽曲の切なさと暗さ、それは俺が最初に『シャウト』のジャケットを見て感じたTFFの2人のナイーブな青年という印象と見事にイコールで結ばれたのだ。
その後、彼らは音楽性に行き詰って、たまたま見て気に入った黒人シンガーを入れて"The Seeds Of Love(邦題「シーズ・オブ・ラヴ」)"をリリースしてこれも大ヒットさせたけど、以降はローランドとカートの仲が悪くなってカートが脱退という最悪なことが起こってしまった。ローランドがTFFの名前を引き継いでアルバムを出していたけど、正直俺にはもはやTFFでは無いように感じてしまい、すっかり聴かなくなってしまった。実を言うと、『シーズ・オブ・ラヴ』も出た時にすぐにアルバムを買ったけど、いまいちなじめずすぐに手放してしまった。だから俺にとってはTFFは最初の2枚だけで止まったようなものだったし、きっと俺と同じような人が世界中にたくさんいるんじゃないかと思っている。しかし2000年以降に2人が接近している噂を聞き、それが現実のものになったのは驚いた。2004年に15年ぶりに2人揃ったアルバム"Everybody Loves A Happy Ending"をリリースしたのだから。俺は数回しか聴いていないけど、やはり2人揃ったTFFってだけで印象がはるかに違う。しかも「誰もがハッピーエンディングが好き」と言えるなんて、初期の悩み多き青年たちも大人になったんだなと、勝手なことを思ったりする。
先にも書いたように、TFFは恐らくこのアルバムで言いたいことをすべて言ってしまったのかもしれない。アルバムには収録されていないが、これに続く"The Way You Are"という曲をシングルで出したもののそれはヒットせず、すでにここで一旦リセットして『シャウト』に繋げている。そして『シーズ・オブ・ラヴ』でも同じような流れだから、限界がきたのもうなづける。だからTFFの最初の3枚のアルバムはすべてタイプが違うのも当然。音の重さは『シャウト』だけど、楽曲の儚さ、切なさは『ザ・ハーティング』だろう。俺はこのどちらも好きなので、そろそろ20数年ぶりに『シーズ・オブ・ラヴ』を聴きなおして再評価したいなと考えている。(h)
【イチオシの曲】Pale Shelter
このアルバムの楽曲はどれも素晴らしいんだけど、一番切なさが伝わってくるのはこの曲かな。それはただ単に音の感じがって意味で。ヴォーカルはカート・スミス。興味がある人は他に"Change"と"Mad World"なんかも試聴してみるといいと思う。ちなみに本文で触れた"The Way You Are"という曲はこのアルバムのボーナストラックとして今は聴くことができる。
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