2013年6月2日日曜日

ビキニ・キル / プッシー・ホイップド


ビキニ・キル / プッシー・ホイップド

Bikini Kill / Pussy Whipped (1993年リリース)
①Blood One ②Alien She ③Magnet ④Speed Heart ⑤Lil Red ⑥Tell Me So ⑦Sugar ⑧Star Bellied Boy ⑨Hamster Baby ⑩Rebel Girl ⑪Star Fish ⑫For Tammy Rea

90年代初頭、グランジ/オルタナティヴと呼ばれる音楽がメインストリームをひっくり返して行く中で、ライオット・ガール(Riot Grrrl)と呼ばれるフェミニスト達のムーブメントが注目を集めた。そのライオット・ガールの始祖的なバンドのひとつであるビキニ・キルは、グランジの代表格であるニルヴァーナのカート・コバーンの元カノであるトビ・ヴェイルが居たバンドで、カートのフェミニズム的な思想は彼女からの影響が大きいと言われている。また、ビキニ・キルの中心人物であるキャスリーン・ハンナは、ニルヴァーナの代表曲「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のインスピレーションをカートに与えた人物としても知られている。グランジ/オルタナティヴな見た目とサウンドを放つホール、L7やベイブス・イン・トイランドといった女性を中心としたバンドが有名なライオット・ガールとして取り上げられるケースもあるが、ライオット・ガールなバンドと言えばまずビキニ・キルの名が挙がって然るべきだろう。

ビキニ・キルのアルバム『プッシー・ホイップド』は、インディレーベル「キル・ロック・スターズ」より93年にリリースされた。これに先立ち、91年には8曲入りの自主製作カセットテープ『レヴォルーション・ガール・スタイル・ナウ!』を、92年にはセルフタイトルのE.P.を、93年にはハギー・ベアとのスプリットアルバム『ヤー・ヤー・ヤー・ヤー』をリリースしている。また、92年のE.P.と93年のスプリットアルバムの音源をコンパイルした『ザ・C.D.バージョン・オブ・ザ・ファースト・トゥー・レコーズ』を94年にリリースしている。

今回、記事を書くにあたってビキニ・キルの1stアルバムに相当するのがどの作品なのかについて少々悩んだが、ここではLPとCDでリリースされた初めてのフルレングスアルバム『プッシー~』を取り上げることにした。Wikipediaに記載されたビキニ・キルのディスコグラフィーでは、1stアルバムを『レヴォルーション~』としているし、活動初期のまとまった音源としては『ザ・C.D.~』を取り上げる方が本ブログの主旨に適するかもしれないが、俺の独断と偏見で『プッシー~』を選ばせてもらった。また、ビキニ・キルの作品は日本盤がリリースされたことがなく、基本的に輸入盤となる(輸入盤に帯とライナーノーツを付けたものがリリースされたことはあったようだ)。ここまで作品のタイトルをカタカナ表記させてもらったが、不適当なものもあるかもしれない点をご了承いただきたい。

この『プッシー~』がリリースされるまでに、ビキニ・キル結成から3年ほど活動していることになるが、その間の演奏能力に大きな進歩はなく、その音からは初期衝動というか凄まじい勢いを感じる。自分自身のアイデンティティに葛藤する②、男女関係における不平等感に対する怒りや悲しみといった感情を楽曲にして叩き付け続ける⑤、⑦、⑧など、英語のヒアリング能力が全くない俺でなくても彼女達の叫びを聞き取ることは難しいだろう。特に⑨の歪まくったトビの叫びは痛々しくすら感じる。しかし、赤裸々で攻撃的な内容である歌詞を男性である俺が聞き取ることができないのは悪い意味で都合が良いのかもしれない。⑩は多くの女性バンドにカバーされているライオット・ガールのアンセムであり、それに続く⑪、⑫の物悲しい雰囲気の流れもその余韻を残すことなくあっという間に終わってしまう。12曲入りで25分にも満たないこの作品からはD.I.Y.やパンクという言葉がとても良くフィットし、メンバーで費用を工面し制作した『レヴォルーション~』をカセットテープにダビングして量産したり、ファンジンを作っていたであろう頃と何ら変わっていない。俺にパンクを教えてくれたのはビキニ・キルだった。

俺にとって特別なバンドであるビキニ・キルだが、彼女たちの歌詞の中でやり玉に挙げられる男性性である自分は、本当の意味でビキニ・キルのファンにはなれないのではないかという恐怖すらある。だが、これこそ彼女たちが怒りを向けるべき無知、無理解から来る考え方でもあることも理解しているつもりだ。ライオット・ガール=男性排除主義というレッテルは、メンバーにビリーという男性ギタリストが居ることからも容易に否定できる。ライオット・ガールは偏った報道により間違った見方をされがちだが、俺は彼女たちのようなパワフルでエモーショナルな音楽、サウンドが大好きなのだ。

97年の来日公演で俺にダイヴを喰らわせぶっ倒れさせたキャスリーン。彼女の目には、ステージ前方に来た俺が他の女性ファンの邪魔になっていると映ったのかもしれない。以後気を付けます。

P.S.
以下に貼った動画の’Rebel Girl’の音源は、このアルバムに収録されているバージョンとは異なる点をご了承ください。(k)



0 件のコメント:

コメントを投稿