2012年6月3日日曜日
ビースティ・ボーイズ / ライセンスト・トゥ・イル
Beastie Boys / Lisenced To Ill(1986年リリース)
①Rhymin & Stealin ②The New Style ③She's Crafty ④Posse In Effect ⑤Slow Ride ⑥Girls ⑦Fight For Your Right ⑧No Sleep Till Brooklyn ⑨Paul Revere ⑩Hold It Now, Hit It ⑪Brass Monkey ⑫Slow And Low ⑬Time To Get Ill
1986年にRUN-D.M.C.が「ウォーク・ディス・ウェイ」をヒットさせたことでヒップ・ホップ/ラップの知名度を一気にメインストリームに持ってきた。俺もこの曲に衝撃を受けて彼らのアルバム『レイジング・ヘル』を聴いたのだけど、若干18歳の白人ロックばかりを聴くようになっていたガキにはまだ難しかったようだ。「ウォーク・・・」はエアロスミスの曲のカバーで、実際にジョー・ペリーがギターを弾いていたこともあってまるでロックそのものだったのだが、アルバムの他の曲はリズム主体で当時の俺にはまだ十分理解できなかった。
その数ヵ月後、今度は白人3人によるヒップ・ホップグループが話題となった。白人がラップということが当時は珍しかったし、まるで悪ガキがふざけているかのような⑦のPVのせいもあって、少なくとも国内では彼らをイロモノ的に扱ったメディアやリスナーの方が多かった記憶がある。もちろん俺もそうだったし、それこそ一発屋で終わるだろうなんて思っていた。だけどデビュー・アルバム『ライセンスト・トゥ・イル』はロックばかりを聴いていた俺をたちまち虜にしてしまった。
何せレコードに針を落とした1曲目のイントロがいきなりレッド・ツェッペリンの「レヴィー・ブレイクス」のドラムである。他にもザ・クラッシュやブラック・サバス、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルといった70年代ロックからのサンプリングが多く、それらはギターリフが多かったからRUN-D.M.C.よりもずっとキャッチーで入りやすかったし、特に3曲もサンプリングに使われていたツェッペリンを夢中になって聴いていた俺が喜ばない訳がない。黒人のようなリズム感は皆無で、もともとはハードコア・パンク・バンドから始めたというだけあってヒップ・ホップな雰囲気は少なく、むしろロックのアルバムといった感じだ。それが功を奏したのか『ライセンスト・トゥ・イル』はビルボードのアルバムチャートで1位になった最初のヒップ・ホップ・アルバムとなった。蛇足だけどバカっぽさもウケた要因じゃないかと思っている。
90年代に入っていくとロックとヒップ・ホップをミックスしたようなバンドが多く出てくるようになったが、このアルバムはある意味その先駆けと言ってもおかしくない。しかしビースティ・ボーイズがそれらのバンドと違うのはロック・バンドとしてではなく、ヒップ・ホップ・グループとしてアプローチしたことだ。2枚目の『ポールズ・ブティック』がリリースされたが3年後の1989年、このアルバムと同じような音を期待されていたのであろうが、しかしサンプリングをさらに多用した王道ヒップ・ホップ・アルバムだったために「なに真面目になってるの」的な雑誌の評価もあったぐらいで商業的には失敗した。だけど俺はこの最初の2枚でヒップ・ホップという枠から抜け出すためのケリをつけたのだと思っている。俺よりも下の世代の人が「ビースティズ最高」というのはその後のオルタナティヴという言葉が出てきた90年代になってからの彼らの音楽性なんじゃないかなといつも思う。そうは言っても『ライセンスト・トゥ・イル』は今聴いても異彩を放っているし、彼らを語る上では決して無視できないアルバム、そしてヒップ・ホップ史上でも間違いなく歴史に残るものであろう。(h)
【イチオシの曲】⑫Slow And Low
この曲はもともとはRun-D.M.C. が『キング・オブ・ロック』のセッションで録音したがオクラ入りしたもので、しかしビースティ・ボーイズはこの曲を気に入っていたとのことでRun-D.M.C.から許可をもらってカバーすることになったそうだ。現在は両者のバージョンを聴き比べることが可能だが、一部のリリックを変更しているだけでほぼ忠実にカバーしているところなんかは彼らのRun-D.M.C.へのリスペクト具合がよく表れていて興味深い。
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