2013年1月7日月曜日

ジャコ・パストリアス / ジャコ・パストリアスの肖像



Jaco Pastorius(1976年リリース)
①Donna Lee ②Come On, Come Over ③Continuum ④Kuru/Speak Like a Child ⑤Portrait Of Tracy ⑥Opus Pocus ⑦Okonkole Y Trompa ⑧(Used To Be A) Cha-Cha ⑨Forgotten Love

俺は楽器はやらない。一度ボサノヴァギターを習っていたことがあるが、コードが覚えられず、例え1曲マスターしてもすぐ忘れてしまうのでプレイには向いていないのだと思う。そんな楽器オンチである俺がジャコのことを語っていいのか果たして謎だけど、書いてみる。

そもそも俺がジャコ・パストリアスに興味を持ったのはアルバムからではなく本だった。シンコー・ミュージックから刊行されたビル・ミウコウスキーの「ジャコ・パストリアスの肖像」を何故かロック雑誌のレビューで見て、読んでみたのが始まりだった。当然ジャコの音楽はおろか、彼が後に参加したウェザー・リポートもまだ聴いていなかった。それまでにジャコについて知っていることといえば、その数年前にケンカがもとで亡くなったという記事を、これまたロック雑誌で読んだ程度。今となってはなぜジャコの本を読んでみようと思ったのか覚えていない。ただ、読み始めるとやはり肝心の音楽が聴きたくなり、2番目に買ったのがこの『ジャコ・パストリアスの肖像』(本と同じタイトルでややこしい)だった。

それまで俺はベース・プレイヤーに注目するなんてことは一度もなかった。奏者で聴いていたとしてもジェフ・ベックの『ブロウ・バイ・ブロウ』とか高中正義など、ギタリストの作品だけだった。ベースについては低い音を出す楽器程度の認識だったことをここで正直に言っておく。そんな俺がジャコのアルバムを初めて聴いた時の感想は「ベースじゃないみたい」と思ったことだ。じゃあ何って聞かれても困ってしまうのだが、それまでイメージしていたベースとはまったく異なるものに聴こえた。さらに後になって俺は「ベースが歌っている」と思った。世界中のベーシストが衝撃を受けたと言われているが、プレイヤーではない単なるリスナーである俺にも衝撃的だったわけだ。

収録されているのは全9曲(いまはボーナス・トラックが2曲入っているようだけど、俺のCDには入っていない)。①はチャーリー・パーカーの曲をベースだけで再現し、②ではR&B色を打ち出し、③はそれこそベースがメロディを奏で、④は自作の曲とハービー・ハンコックの有名曲をメドレーのようにし、⑤は当時の妻であるトレイシーに捧げたこれもベースのみの曲。⑥はスティール・パンをフィーチャーした楽曲で、⑦はポリリズムが入ったジャズからはいちばんかけ離れた曲、⑧はベース・ソロ以外での終始早いリフを刻むプレイが聴き所。そしてラストの⑨はベースとしてではなく作曲家としての一面を見せるなど、どれ1つとっても同じような曲が入っていない。実に様々な面を見せてくれるのがジャコのデビュー・アルバムだ。自らを「世界最高のベース・プレイヤー」と呼ぶのも頷ける。

ジャコはこの後にウェザー・リポートに加入し、グループのワールドワイドな成功へと導く。しかしウェザーに参加している頃からプレッシャーによるアルコールやコカインへの依存、そして脱退後から顕著になった精神疾患などで自らの命を縮めていってしまう。しかし一方で『ワード・オブ・マウス』やビッグ・バンドを率いての来日公演を収録した『ツインズⅠ&Ⅱ』などの傑作も残している。正確にはジャコのリーダー・アルバムと言ったらこのデビュー・アルバムと『ワード・オブ・マウス』の2枚のみだろう。1987年に泥酔状態でクラブのガードマンと乱闘にならなければ、今もジャコの音楽を聴くことが出来たかもしれないと思うと非常に残念だ。

プレイヤー目線で語られることの多い『ジャコ・パストリアスの肖像』だが、音楽好きを自称するのであれば聴いておくべき1枚だ。ジャコのベース・プレイはもちろんのこと、楽曲レベルにおいても最高峰の作品であるからだ。(h)

【イチオシの曲】(Used To Be A) Cha-Cha
本文でも書いたが、ベース・ソロ以外では最後までずっと速いフレーズを弾きまくる超人的な曲。前半でベースソロを披露したあとはヒューバート・ローズのフルート・ソロ、そしてハービー・ハンコックのピアノ・ソロが入る約9分間の曲だが、その緊張感が途切れることがないのは間違いなくジャコのリズムによるものだと思う。このベースリフは後にウェザー・リポートに提供した「ティーン・タウン」のインプロヴィゼーションや「リバー・ピープル」にも流用されている。

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