2012年12月2日日曜日

キング・クリムゾン / クリムゾン・キングの宮殿


King Crimson / In The Court Of The Crimson King(1969年リリース)
①21st Century Schizoid Man including Mirrors ②I Talk To The Wind ③Epitaph including March For No Reason and Tomorrow And Tomorrow ④Moonchild including The Dream and The Illusion ⑤The Court of the Crimson King including The Return Of The Fire Witch and The Dance Of The Puppets

今から10年以上前、たぶん90年代終わりごろだったと思うが、俺は個人サイトを持っていて、今と変わらずアルバムレビューのようなものを書いていた。その中でこの『クリムゾン・キングの宮殿』については「埋葬計画」という冗談的な内容を書いたことがある。なぜそんな文章かというと、90年代に復活していたにも関わらず、キング・クリムゾンというと枕詞のように『宮殿』アルバムが出てくることに少々ウンザリしていたからだ。あとはプログレファンへのちょっとした皮肉というか、そんなのも含めてだったと記憶している。

いわゆる「プログレ」と呼ばれる音楽については高校生の時にすでにイエスの『こわれもの』や『危機』、エマーソン・レイク&パーマーの『タルカス』などを愛聴していたが、キング・クリムゾンはFM番組から録音した①や⑤を知っているだけで、『宮殿』を実際に聴いたのは20歳を超えてからだった。なぜクリムゾンを聴くのがこんなに遅かったのかというと、FM番組などで録音した他の曲(③や第5期の"The Night Watch"や"Book Of Saturday")が今ひとつ俺の琴線に触れなかったからだ。それはともかく『宮殿』であるが、やはり曲単体とアルバムで聴くのでは大きく印象が異なった。①の凶暴的なヴォーカルとフリージャズのような間奏によるスピード感、間髪入れずに続く②ではフルートの音色に導かれて癒される。そして壮大すぎる③でアナログのA面が終わる。そしてB面の④ではヴォーカルパートが終わった後の10分ぐらいの静寂の中のインプロヴィゼーションが一種の試練かもしれない。そして再び壮大な⑤でアルバムは終了。静と動が見事に織り交ざっていて圧倒的で、こんなアルバムはそれまでに聴いたことがなかった。ただ、俺は正直に言うと、③とか④にはいまいちのめり込めないけど、1stアルバムでこれなんだから、やはり末代まで語られても仕方がない。その後はメンバー・チェンジを繰り返し、『太陽と戦慄』までは試行錯誤を感じるからね。

ところで、今もしこのアルバムを買うのであれば俺だったら迷うことなく輸入盤にする。いや、普段から輸入盤のほうが買うのはおおいけど、『宮殿』アルバムは特に。なぜなら①を「21世紀のスキッツォイド・マン」なんて中途半端な邦題で表記されている日本盤なんかを買うのであれば原題のままでいい。①は誰がなんて言おうと「21世紀の精神異常者」というタイトルが秀逸だろう。精神異常者という言葉が不適切だからスキッツォイド・マンにしたのだろうけど、カタカナにすればいいってもんじゃないだろうが。これほどアルバム・ジャケットのインパクトや邦題が与えるイメージがジャストなアルバムはなかったと思っていたのに、それを水で薄められたようなそんな気分になる。先の「埋葬計画」という文章で、俺は「どうせなら①のタイトルはそのままカタカナにしちゃえばいい、そうすればマヌケな感じでみんな聴く気がなくなるだろう」なんて書いてみたのだけど、まさかその10年後ぐらいに本当にそうなっちゃうとは、いやな世の中になったものだ。

『宮殿』は、ビートルズの『アビー・ロード』を首位の座から引き摺り下ろしたとよく言われているが、これは誤認識であって、実際は『レッド・ツェッペリンⅡ』である。それにしてもそんな素晴らしいアルバムたちがチャートを賑わしていたのかと思うと、1969年という年のロックがいろいろな面で変わりつつあるというのを思い知らされる。ビートルズは解散寸前で、クリムゾンとかツェッペリンとかだし、ローリング・ストーンズも自分たちのルーツを見つめなおしてブルースへ回帰していったことで70年代へ突入していったし、他にも数多の新しいグループやミュージシャンが出てきている。そんな中においても『クリムゾン・キングの宮殿』は一際異彩を放っているし、今聴いてもそれは変わらないと思う。そして俺たち日本人にとっては「邦題」も時には重要で、このアルバムはその最たる例だとも思っている。だから「21世紀のスキッツォイド・マン」なんてどこかのゆるキャラみたいな呼び方をするのは俺は好かないのである。

冒頭に書いた「埋葬計画」だが、その文章をどうやって締めたのかというと、途中はなんて書いたかもう忘れてしまったが、『宮殿』を葬ったほうがいい理由をいくつか挙げてた後にこう記した。
「さて、じゃあ聴き納めとして『宮殿』を通して聴いておくか」
~45分後~
「だ、だめだ・・・やっぱり、、、、、良い。このアルバムを葬ることなんて俺にはできない・・・(泣)」

そう、結局埋葬計画は失敗に終わったとさ。(h)

【イチオシの曲】The Court of The Crimson King
俺が「プログレ」と言うときに真っ先に挙げたいと思う曲がこれ。イントロからメロトロンを派手に鳴らし、まるでオーケストラが演奏しているかのような壮大な始まり方、そしてグレッグ・レイクの朗々とした歌声、静と動の融合、ラストはメロトロンの電源が突然切れて力尽きたような終わり方。俺は「21世紀の精神異常者」よりもこっちを断然推す。

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