2012年9月2日日曜日

ベック / メロウ・ゴールド


Beck / Mellow Gold(1994年リリース)
①Loser ②Pay No Mind (Snoozer) ③Fuckin With My Head (Mountain Dew Rock) ④Whiskeyclone, Hotel City 1997 ⑤Soul Suckin Jerk ⑥Truckdrivin Neighbors Downstars (Yellow Sweat) ⑦Sweet Shunshine ⑧Beercan ⑨Steal My Body Home ⑩Nitemare Hippy Girl ⑪Mutherfuker ⑫Blackhole

俺がベックに興味を持ったのは1998年のフジロックで少し観たのと、後にテレビでその模様をちゃんと見てからだったので、アルバムで言うと『オディレイ』が出て数年してからという遅れたファンだ。時は1993年、ニルヴァーナを始めとするグランジ・シーンも落ち着いたころに突如「俺は負け犬、いっそのこと殺してくれ」と歌った「ルーザー」という曲が話題になり、当時読んでいた音楽雑誌でも「変な奴が現れた」的な書き方でこの新しいタイプのミュージシャンに注目していたと記憶する。俺はその雑誌の書き方が気に入らなくて当時は興味を持てなかった。

実際に他の人がどう思っているのか分からないが、俺が想像する一般の人が抱くベックのイメージは『オディレイ』やその後の作品から、その時のトレンドを取り入れながら時代の半歩先を行く音楽を作っているとか、そんな感じなのだけどもしそのイメージでこの『メロウ・ゴールド』を聴くと少なからず戸惑ってしまうだろうなと想像する。しかしそれはあくまでも最近のアルバムから遡った場合の話であって『メロウ・ゴールド』前後のベックの活動を押さえておけばむしろ『オディレイ』以降が特殊だと言ってしまってもおかしくはない。

ベックは80年代中頃に高校をドロップアウトして祖父のアル・ハンセンと共にヨーロッパを放浪し、80年代終わり頃にニューヨークへ戻ってくる。その時に目の当たりにした「アンチ・フォーク」というムーヴメントに触発され、彼自身も古いブルースやフォークを基調とした音楽を演奏し始めた。ちなみにアンチ・フォークとは、70年代のシンガーソングライター系ミュージシャンが歌う、なよっとした一般で知られるところのフォーク・ミュージックへの反発のこと。日本で言うところの「四畳半フォーク」とかだろうか?俺もその手のフォークってのがクソほど嫌いなので、このムーヴメントは素晴らしいと思ってしまう。1988年には"Banjo Story"という作品をカセットでリリース。その後ロサンゼルスに移りバイトをしながらライヴハウスで歌うという日々を過ごす。そこから数年間の間に彼は多くの録音物を残していて、1993年にはSonic Enemyというレーベルから"Golden Feelings"をカセットでリリース、翌1994年にはFingerpaint Recordsというレーベルから"A Western Harvest Field By Moonlight"を10インチ盤でリリースし、同年にはFlipsideというレーベルから"Stereopathetic Soulmanure"というアルバムをリリースと、それまでに溜めた録音物を発表しまくっている。

これらの作品を聴けば分かると思うが、とても今のベックからは想像できないクズ曲のオンパレードである(もちろんコレは愛を込めて言っている)。フォークやブルース、ノイズ、パンクもどきなど、宅録というかローファイというかとてもメジャー・レーベルでは出せないようなものばかりである。そんな中、ベックはBong Loadというレーベルにて「ルーザー」と『メロウ・ゴールド』を録音。「ルーザー」は1993年にリリースされ、地元ラジオ局でオンエアされて話題となると、いくつかのメジャー・レーベルが獲得に乗り出してきた。しかしベックは『メロウ・ゴールド』も先に出したアルバムとほとんど同じようなレベルで製作していたから、メジャー・レーベルとの契約なんか考えてもいなかった。最終的にはすでに録音した『メロウ・ゴールド』をメジャー向けに手を加えることなくリリースしてくれると約束したゲフィン・レコードと契約した。

「ルーザー」はヒットしたが、しかしよく聴くととても奇怪な曲だと思う。スライドギターと打ち込みをバックに、低くこもった声でラップをし「俺は負け犬」と何もかもがマイナスなイメージを与えてくる。それでもこのアルバムの中ではかなりキャッチーな方で、他は彼の出自でもあるブルースやフォーク色が濃いものだが、全体的にやる気のないダルさを感じるものが多く、そうかと思うとハードコアなタイプの曲もあって、よくもまあゲフィンもこんなアルバムを認めたよなって思ってしまう。しかもゲフィンとの契約はそれだけでなく、契約後もインディーズから自由にレコードを出してもいいという特別な計らいもあった。Kというレーベルから出た"One Foot In The Grave"は『メロウ・ゴールド』の後にリリースされたフォーク、カントリー作品だ。

すでにお気づきかと思うが、ベック自身の1stアルバムはこれではなく、正確には"Golden Feelings"ということになる。これは後にSonic Enemyが2000年ごろに勝手にCD化して回収騒ぎとなって入手困難なため、今回はメジャー・レーベルでの1stとなる『メロウ・ゴールド』にしたというわけだ。このアルバムさえ聴いておけば、この時期のベックのほかの作品を聴く必要は特にないと思っているが、でも本当はベックってこういう人なんだよってのを知るためにも他の作品も聴いてみるといいと思う。これらの時期を経て、時代のエッセンスをふんだんに加えていったのが次作『オディレイ』になっていったのだから。(h)

【イチオシの曲】Loser
やはりこの曲があったからこそベックはゲフィンと契約できたわけだし、もしローカルヒットで終わっていたら『オディレイ』もその後も無かったかもしれない。最近の作品は洗練されすぎちゃっていて、そろそろこのような泥臭い作品を再び出してくれてもいいのではないかなと思う。

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