2012年8月12日日曜日

パティ・スミス / ホーセス


Patti Smith / Horses(1975年リリース)
①Gloria ②Redondo Beach ③Birdland ④Free Money ⑤Kimberly ⑥Break It Up ⑦Land: I)Horses II)Land of a Thousand Dances III)La Mer (De) ⑧Elegie

まだハタチにもなっていなかった俺はパティ・スミスに夢中になった。今でも俺は唯一の女性ロッカーは彼女しかいないと思っている。他の女性ミュージシャンは結局のところ「女」を売りにしているようにしか見えなかったが、パティ・スミスはその辺の男よりも遥かにロックン・ロールを体現してきたと思うし、65歳となった今でもそういう存在だ。

1970年代始めにニューヨークへ出てきた彼女は演劇やポエトリー・リーディングなどを行いながらチャンスを窺がっていた。70年代半ばにもなるといわゆるニューヨーク・パンクの流れが活発になってきて、それまでギターとピアノをバックに朗読を行っていた彼女もロック・バンドを結成する。そして75年に「パンク」と呼ばれるレコードの中で最も早くリリースされたのがこの『ホーセス』だ。以前、テレヴィジョンの『マーキー・ムーン』の時にも書いたがこのアルバムも「パンク」という言葉に囚われるとその音楽性に戸惑ってしまうだろう。ここのアルバムにはロックン・ロールとポエトリー・リーディングが見事に調和された独特の世界がある。

もはやロックの古典とも言える①はゼムのカバー曲であるが「ジーザスが死んだのは誰かの罪を被ったからだけど私のではないわ」と冒頭に歌うことで完全に彼女のオリジナルと化している。初期の活動であったポエトリー・リーディングを思わせる③や⑦の壮大さ、テレヴィジョンのトム・ヴァーレインが参加した⑥など、聴き所は多い。プロデュースは元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルだが、本作をアナログで初めて聴いた19歳の頃の正直な感想は「音が薄っぺらい」というものだった。音に迫力が感じられなくて当時は2枚目の『ラジオ・エチオピア』のほうが断然好きだった。パティ自身もカー・ラジオから流れてきた本作の曲を聴いてその音の薄さに愕然としたなんて話も聞いた。しかしここには当時のニューヨークの空気が封じ込まれているし、ロックで言葉を表現するという彼女の強い意志を感じる。このアルバムを聴いて何も感じないなんて言う人がいるのであれば、ロックなんて聴くのやめちまえよって思う。

このアルバムでもう一つ語っておくべきなのはジャケット。元恋人でもあった今は亡きロバート・メイプルソープが撮ったモノクロの写真。そこに写る男性的な佇まいの彼女の姿、そして眼差しから伝わってくるストイックな緊張感。これも当時のニューヨークのアンダーグラウンドの空気を感じさせてくれて、ロックのアルバムジャケットでカッコいいものと言ったらまず最初に挙がる1枚だと思う。(h)

【イチオシの曲】Birdland
9分以上もあるポエトリー・リーディングで、この曲に彼女の初期の活動の原点を見出せる。朗読の抑揚に合わせてバックの演奏も盛り上がり、一種演劇のようにも思える。これで詩が直接伝わってくればもっと面白いんだろうけどなぁ。


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