2012年6月17日日曜日

キャット・パワー / ディア・サー


Cat Power / Dear Sir (1995年リリース)
①3 Times ②Rockets ③Itchyhead ④Yesterday Is Here ⑤The Sleepwalker ⑥Mr. Gallo ⑦[Untitled] ⑧No Matter ⑨Headlights

アメリカ人女性ショーン・マーシャルが持つもう一つの名前、キャット・パワー。彼女は音楽を創り、演奏し、歌うだけでなく、モデルや女優という肩書きをも併せ持つ。純粋にその音楽に惚れ込んでしまった俺は、彼女の存在感そのものに魅了され続けている。リズ・フェアのオープニングアクトを勤めたという彼女の音楽キャリアの黎明期にまつわるエピソードだけでなく、ソニック・ユースのスティーヴ・シェリー、ダーティ・スリー、エディ・ヴェダー、デイヴ・グロール、ジュダ・バウアー、ベック等々枚挙に暇がないほど数多くのアーティストたちと共演してきた彼女。俺が敬愛して止まないこれらのアーティストからも支持されているという事実も、彼女への興味を増長させる。

そのキャット・パワーの1stアルバム『ディア・サー』は、ティム・フォルヤンとスティーヴ・シェリーをバックに1994年12月、ニューヨークでレコーディングされた。1996年にリリースされた2ndアルバム『マイラ・リー』に収録されている曲も実はこの時にレコーディングされたものであり、この時に生まれた曲たちを振り分け2枚のアルバムが形作られた。2004年に彼女の過去の作品が日本盤でリリースされた際にまとめて入手したという個人的な経緯もあり、俺の頭の中ではこの2枚のアルバムが混ざってしまっている。リリースに時間的な隔たりはあっても、同じサウンドと空気を持っている作品ということなのだろう。②は何故か両方のアルバムに収録されているし。

俺が初めてキャット・パワーの存在を認知したのはアメリカの有力なインディレーベルであるマタドールの2枚組サンプラー『ワッツ・アップ・マタドール?』収録の「ヌード・アズ・ザ・ニュース」を聴いて。ヤられた。んで、後に知ったそのキュートなルックス。2度ヤられた。それから、2003年の初来日公演。3度ヤられた。そしてその公演で知ったのが彼女の表現力の豊かさ。

その時、彼女はザ・ローリング・ストーンズの「サティスファクション」を演奏したのだが、その旋律は全く彼女のオリジナルとなっていた。'I Can't Get No Satisfaction'と歌っているのがわかったにも関わらず、彼女の曲かと思ってしまった。この「サティスファクション」を含む5作目『ザ・カバー・レコード』はそのタイトルが示すとおり中身はカバー曲で構成されているものの、歌詞以外の原型はほとんど留めておらず、オリジナルアルバムと言っても遜色ない大変素晴らしい作品となっている。この『ディア・サー』に収録されているトム・ウェイツのカバーである④も同様で、彼女はそのタイトルである'Yesterday Is Here'というフレーズを口遊むことなく曲は終わってしまう。どこまでも自由な彼女の表現力に平伏せざるを得ない。

この彼女の表現力が発揮されるのは実はカバー曲だけに限らない。2010年の来日公演を見に行った後、ネットで流れてきたその日のセットリストを見て初めて「アイ・ドント・ブレイム・ユー」を演奏していたことを知った俺。俺の大好きな曲なのに演奏されていたことに全く気づかないとは…(涙目)。他人の曲だけでなく、過去の自分の曲ですら今現在の自分のものにしてしまうこのセンス。毎晩同じ曲を演奏しても、過去に縛られることなく音楽を続けていくための彼女の処世術と言い換えることもできるのではないか。

さて最後に、正直に告白するとこの『ディア・サー』よりもセカンドアルバム『マイラ・リー』の方が好きだ。なぜなら『マイラ・リー』には、俺の大好きな曲「アイス・ウォーター」が収録されているから。さらにもうひと言。ウィキペディアによると、彼女は当時のインタビューで『ディア・サー』を1stアルバムではなく、E.P.と位置づけているという発言があったらしい。だとするとこの駄文、本ブログ「1AB」の趣旨から外れちゃうよ…。おしまい。(k)

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